2011年7月22日金曜日

世の中の意見が〈私〉と違うとき読む本(幻冬舎)

著者:香山リカ 出版社:幻冬舎 発行年:2011年 本体価格:740円
よくある「自分探し」とかいう本とは違う。タイトルの〈私〉がギュメで囲まれているのがポイントで、そもそも「私」なる存在自体も「他人がいるからこそ規定できる」という前提の上に書かれている。つまりポストモダン。近代が「物語」をつむぐ作業で、その後、近代から現在をへてポストモダンへ。そしてまた21世紀は「近代」に戻りつつある。原子力発電の事故も、これ、世界史に残る大事件のはずなのだが、新聞やテレビで描写されるのは「近代的な物語」。で著者は当然のことながら、明確な結論を出さないのだが、これはまあ普通の人間ならばこそ。この「普通」が一番難しい。他人が規定して、しかも「私」もそこそこに満足する生活とはこれかなり難易度の高い生き方で、意見が世の中と違うとか同じとかいうレベルの話ではない。ギッチギチの近代でもなく、スカスカのポストモダンでもない「ほどほど」の生活。そんなほどよい生活を実現することの難しさはセミナーやら自己啓発本では達成できないレベル。したがって、この本のタイトルで購入した人はがっかりしたかもしれない。ただ、逆に息苦しさから救われる人もいるかもしれない。
「私」「自分」「個性」といった抽象的で難易度の高い概念から解放されて、それなりに、ほどほどに、そして「自分探し」もしないですむ生き方。それって何も考えないで生きるのと非常によく似ているが、一定程度考えてからその道を選んだほうが、「な~んとなく」楽しい人生が送れそうな予感がする。そんな予感に道筋をつけてくれるような内容の本。ここのところ相次いで出版されている著者の本の1冊だが、タイトル的にも内容的にも価格に見合う内容。

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