2011年7月14日木曜日

犯罪小説家(双葉社)

著者:雫井 脩介 出版社:双葉社 発行年:2011年(文庫本) 本体価格:714円
今回の直木賞は池井戸潤さんが受賞された。勇気のでる企業小説を書く作家だったのでけっこう嬉しい。で、この本はそうした受賞の知らせを待つ場面から始まる。昭和50年代の東京を舞台にした人間模様を描いた作品、そしてそれを映画化しようとする「奇才」と呼ばれるクリエーター。この二人が映画化をめぐって「意見交換」しつつうかびあがってきた「自殺サイト」。
正直、「こんな取り合わせで普通、こういう人間たちのコミュニティが成立するのか?」という疑問もわくが、ラストまで読むとつじつまがあうようにできている。で、扱っている題材は「自殺」「死への衝動」といった暗いテーマなのに読者の側はラストまで読むと「生き続ける執念」みたいなものまで感じるという趣向。「どんでん」というのはまさにこういう展開なのだろう。いやミステリーというほどのトリックはなく、またフリーメールを利用した旧ウェブサイトの常連からのアクセスも奇妙、さらに卒業アルバムの管理はいくらなんでもまともな大学図書館であればそれほど簡単なことではない。が、そういうご都合主義を乗り越えてまでも「ラスト」へ向かうこの著者の執念。文庫本の表紙のイラストもよくできているし、舞台設定が東京の多摩市というのもうまい。技ありベストセラーといったところだろうか。

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