2010年3月23日火曜日

ヒトラーの秘密図書館(文藝春秋)

著者:ティモシー・ライバック 出版社:文藝春秋 発行年:2010年 本体価格:1900円 評価:☆☆☆☆☆
 書店で「これは面白そうだ」と手にとったのが始まり。最初から最後まで意外な独裁者の情報源が解き明かされていく。「ディレッタントの書斎」と大雑把に位置づけることになるが、より踏み込んで書き込みなどを検討していく著者はユダヤ人問題の「源泉」、バチカンの司祭が試みようとしたナチスの分断作戦、ポーランド侵攻やスターリングラード侵攻当時のヒトラーの考え方の源、フリードリッヒ大王が救済された「ブランデンブルグの奇跡」などナチス勃興から消滅に至るプロセスを検証していく。この歴史上稀に見る独裁者の情報源は意外なところに潜んでいたわけだが、それはニーチェでもハイデガーでもなかった…というのがポイントかもしれない。イタリアとの同盟についてはその理由が示されているが日本との同盟関係についてはライバックは明らかにしていない。英米との同盟関係が締結できない理由は同時に明らかにされているのだが、第二次世界大戦当時に「北欧人種説」に依拠してアメリカ合衆国を褒め称えていたヒトラーが非北欧人種で構成されている日本との同盟関係について、どう折り合いをつけていたのかは興味深いところだが…。「自己欺瞞」と表現されているヒトラー特有の「自分自身をもだましてしまう口約束と嘘」については、冷静な記述で立証されている。あ、「自己欺瞞」っていうワザ、日常生活でも見ることが多いが、ひとつの国家元首が「自己欺瞞」を行うようになるともはやその国家は破滅に導かれていくというひとつの実例か。「すでに発生した歴史」にさらに緻密に検証を加えていくと同時に、一部に巻き起こる「天才説」を棄却する一種の証拠にもなりうる本。エンターテイメントとしても面白い。

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