2010年3月28日日曜日

葬式は、要らない(幻冬舎)

著者:島田裕己 出版社:幻冬舎 発行年:2010年 本体価格:740円
 「お葬式」という伊丹十三監督の映画があったが、ああ、考えてみるとこの「お葬式」ってけっこう業者のいいなりだったりする。かなり大仰なお葬式になることもけっこう多いが、かといって簡素にすぎるとまた「世間」からあれこれ言われる可能性が高いという厄介な代物だ。世界最高のコスト高という日本のお葬式について分析された書籍だが、平均231万円という統計はわりと個人的な実感からしても正しいという印象を受ける。法的な義務は著者がいうようにない行事であるから、宗教的な理由かあるいは「文化」的な理由によるものだろう。著者は「宗教学」の観点から、仏教における「お葬式」の存在意義を問う。古代のお葬式は装飾画からすると「現世と連続した世界」、仏教が日本に浸透してきてからも高松塚古墳などでは仏教の影響があまりみられない、仏教式の葬式が開拓されたのは鎌倉新仏教の曹洞宗という指摘が興味深い。そして、現代の仏寺の収入源がかなり戦前と比較すると限定されてきており、「葬式仏教」というスタイルをとらないと設備の維持もままならないという「状況説明」がある(実際に廃寺はかなり多い)。神道の祖先崇拝などの文化も現代は廃れ気味になっているか、あるいは「形式化」しているわけだが、この本ではやはり神道や他の宗教よりも「仏教のあり方」を主題にすえているとみるべきだろう。特に「戒名」についての著者の批判は痛烈だ。
 今の現実の世界と「死後の世界」との関係性という問題も背後に潜んでいると思われる。タイトルはややスキャンダラスが印象を受けるが、中身は日本の歴史や文化、神道と仏教の対比、今後のお寺のあり方など種々の問題提起をしたかなりハードな内容だ。

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