2011年8月31日水曜日

かばん屋の相続(文藝春秋)

著者:池井戸潤 出版社:文藝春秋 発行年:2011年 本体価格:581円
いずれも主人公が銀行員という設定の短編集。ただし同時に青春時代を取り扱った短編集でもある。「情」がかよわないデジタルな世界のようにみえて、そこに行きかう人の「情念」」が文字と文字の間をとびかう。「いつでも会社なんかやめてやる」といきまいていたミュージシャン希望の銀行員は、なぜか自分にあわない業務に淡々と取り組む。それには訳が…。という展開だ。数字と数字の羅列はそれだけでは意味をもたないが、ある角度から突然、関係がうかびあがることがある。手形や小切手の世界にも、それなりの物語があるから面白い。
業界の内訳話というわけではなく、また金融小説や経済小説というわけでもない。どこにでもある街並みのなかで普通に生きている人間のなかに突如わいてくる「物語」。裏切りもあれば、和解もあり、そうした「物語」は銀行という場所設定のなかでも、いろいろなバリエーションがありうるという味わいが楽しめる。

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