2011年8月29日月曜日

消失 上巻(角川書店)

著者:高杉良 出版社:角川書店 発行年:2010年 本体価格:857円
舞台になっているのは2001年~2002年ごろの架空の都市銀行「協立銀行」。実際には、その後東海銀行、東洋信託銀行とUFJグループを構成する三和銀行と推定される。ただし、金融腐食列島シリーズでは、明らかにモデルは他の都市銀行もしくは長期信用銀行であるにもかかわらず一つの銀行にエピソードをおさめてしまうため、全部が全部三和銀行ということでもない。独特の営業規律をもっていた三和銀行は、風土としては昔の住友銀行に近い雰囲気だったようだ。営業推進にかける意気込みはすさまじいものがあったが、そのかわり幾多の不良債権を抱え込み、2002年から開始された金融再生プログラムでは、貸出先の圧縮と不良債権の処理に追われる。東海銀行との合併は、当時のダイエーの貸付金を1兆円あまりに膨らませ、実際にはUFJ銀行は3年度の決算のすべてが赤字。行内の権力争いも陰湿なものがあったようだが、そのいったんがこの小説で垣間見られる。ほぼ男性ばかりが登場するが、女性も一部描かれる。ただ、40代などの中年女性を描写すると、一定の上手さはあるが、20代の女性を描写しているくだりは、やや、うっすら寒気が…。一種、著者の幻想のようなものが、20代の登場人物には託されているようで、薄気味悪い。「序列」を気にする部分も当時のバンカーの一種の「クセ」なのかもしれないが、2011年の今からすると意識も相当に変わっただろう(少なくとも銀行が、安定していい職場だ…と無意識に感じている人間は2002年のころほど多くはないはずだ)。上巻だけで646ページにわたる大部の作品。非常に面白いが、描かれている時代から8年経過しても、金融機関受難の時代は続いているようだ。

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