2011年8月30日火曜日

人はひとりで死ぬ(NHK出版)

著者:島田裕己 出版社:NHK出版 発行年:2011年 本体価格:740円
「無縁社会」といいつつも、それでは、かつての「有縁社会」は本当に良かったのか、という問題の設定。寺山修司の映画や戯曲にふれると、そこにあるのは、故郷への一種の恨み節。都会もしくは他の田園で過ごしつつも故郷を捨て去りきれない「情念」みたいなものを感じる。地域のつながりをうっとうしく感じていた時代というのは確かにあった。では「無縁社会」をそのまま是とするわけにもいかない。もう少しネガティブに考えるのではなく、有縁社会の悪いところも見据えてから、ポジティブに無縁社会を捉えていく方法もあるのではないか、という筆者の問題設定だ。侘しく寂しい生き方として単純に捕らえるよりも、より豊かで自由にいきる方法だ、ととらえる方法だってある。村から出て都会にでてきた農村の次男や三男が都会に労働力を供給した…という歴史の流れからすると、「部屋住み」に甘んじる農村の暮らしよりも自由な都会のほうが輝いていた時代はあったはず。無縁社会というやや殺伐とした言葉のイメージよりも、その意味する「個人の人生」をもっと積極的にとらえてみては…という宗教学者のメッセージ。NHKはルポで「無縁社会」を報道しつつ、NHK出版でこんな問題提起もしている。なかなかやるな、と感服した次第。

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