2011年8月26日金曜日

最終講義(技術評論社)

著者:内田樹 出版社:技術評論社 発行年:2011年 本体価格:1580円
ある一時期、仏文科の卒業生が学会やジャーナリズムを席巻したことがある。立花隆さんも仏文科の卒業生だし、蓮実重彦さんもそうだった。この本を読むとその理由がわかる。1960年代のフランスの思想界がサルトル、レヴィ・ストロースといった先駆的思想を多数生み出し、それを仏文科がフォローしていくという黄金時代があったのだ(84ページ)。そしてそうした理由がわかればその後仏文科が衰退して、いわゆる教養学部や総合学部がかつての仏文科の役割を担い始めた理由も推察できうるようになる(東京大学の進学振り分けでは仏文科の点数よりも教養学部の点数のほうがはるかに高い)。著者もまた1960年代のフランスに魅せられつつ、さらにその根底にある学問の鉱脈に没していく。最終講義といいながら、その内容は「学ぶ」ということへの決意表明にしか読み取れない。学会や大学をさる講義でありながら、大学や学会に対する挑戦状とも受け取れる「明晰な学問論」への反論、大学に導入された市場原理への疑問、誰に対しての学問なのかといった疑念の数々は、知性と学問に対する愛情の裏返しではないか。科学技術である程度は明晰な知識が入手できる時代にあえて「見えないもの」「伝統的なもの」「矛盾するもの」にこだわろうとする著者の姿勢は、読者の知性や知識欲を刺激する。退屈な日常にも「画されたドア」はある。そんな期待をもたせてくれる社会人への応援歌でもある。

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