2010年4月30日金曜日

環境ビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本(秀和システム)

著者:福井 晋 出版社:秀和システム 発行年:2010年 本体価格:1400円 評価:☆☆☆☆☆
 タイトルは異常に長いが,中身はコンパクトにまとまっておりしかもグラフも統計も豊富。蛍光灯からLEDへ、など日常生活に関係するエコのエピソードが満載で、確かにこれ1冊で日本経済新聞の記事などはかなり読みこなせるようになるだろう。日進月歩の世界だけに、2010年4月時点ではやはりこの本、かなりのお勧めの内容で、企業事例なども掲載されているほか巻末資料や索引も充実。章立てにやや問題があるようにも思えるがそうした構成上の問題点は改訂版がでれば克服されていくだろう。

2010年4月28日水曜日

アメリカ、中国、そして日本経済はこうなる(ワック株式会社)

著者:日下公人 三橋貴明 出版社:ワック株式会社 発行年:2010年 本体価格:933円
 かなりのベテランのエコノミストと中小企業診断士出身のウェブ発のエコノミストの対談集。いや、面白い。日下氏自身が日本長期信用銀行時代から異色のエコノミストといわれていたが、かつてその文庫本で「なぜお茶が自動販売機で販売されていないのかが不思議だ」と語っていたことがある。当時はお茶を自動販売機で販売するという発想がなかったためだが、今ではもう定番商品。あたりまえのことを普通にさりげなく指摘するというのがとても大事で、それがお二人とも得意なエコノミストだから、アメリカ・中国・日本を題材として扱っていてもそれほど両者で対立する場面は少ない。ただ国債発行の負担に関しては世代間闘争めいた対談もあったが。
 中国の経済成長については両者とも悲観的でアメリカが今後もそれなりの影響力をもつというあたりが一致。国内問題では世代間負担について考え方が異なるといったところか。私は三橋氏の立場に共感するが。対外純資産をもちすぎると国際経済でたたかれるという指摘にはもっともな気がする。ただしネットワーク化した現在で、対外純資産をふみたおすために戦争をする…というような事態が発生した場合にはまた19世紀から世界史を繰り返さなければならないといった気も。これは日下氏がやはり高齢すぎたからでてきた意見かもしれない。ともあれ、時代の変わり目にかつての市井のエコノミストと堂々とわたりあい、今後の展望を描写してくれる若きエコノミストの誕生は喜ばしい。

2010年4月27日火曜日

テンプル騎士団の古文書 上巻・下巻(早川書房)


著者:レイモンド・クーリー 出版社:早川書房 発行年:2009年 本体価格:740円
 2005年にアメリカで出版された歴史ミステリー。メトロポリタン劇場で開催されたヴァチカン至宝展。そこにあらわれた4人の騎士団が暴虐のかぎりを尽くして立ち去るが、その現場には女性考古学者のテスが居合わせていた…。テンプル騎士団というと「うさんくさいと思われる」と登場人物の一人がいう。エルサレムで9年間ナゾの発掘作業をしてフランスで時のフランス王と教皇によって虐殺された騎士団。13日の金曜日の本来のいわれもこのテンプル騎士団とされている。だがこの騎士団の数奇な運命はいろいろな憶測を可能にする。ソロモンの神殿(temple)でいったい何をしていたのか、ひょっとすると何かの宝物を入手したのではないか…などなど。為替業務にも関係していた…ということから暗号へ。そして解読へ…と話は進むがいかなるアルゴリズムだったのかは実は最後まで明らかにされないまま。あまりそうした細部にはこだわらないで話を進めていくのがこのレイモンド・クーリーたるゆえんかもしれない。そもそも出だしからラストまでどことなくハリウッド・ムービーを思わせる展開で、盛り上がったあとは急に静かなリズムとなったりする。読み始めたらやはり最後まで一気に読んでしまう歴史ミステリだが、その手法は、「ダビンチコード」ではなく、ハリウッドに由来するものとみた。それにしても歴史ミステリというジャンル、これまで本当に無関心だったのだが、けっこう読んでみるとなかなか面白い作品ばかり。ハイテク機器と古文書といういっけん相対立するものが並列になっているのもまた個人的に興味深い。

2010年4月26日月曜日

イエスの古文書 下巻(扶桑社)

著者:アーヴィング・ウォーレス 出版社:扶桑社 発行年:2005年 本体価格:819円
 な、なんと原作が発売されたのがアメリカで1972年…。48年前の作品なのにぜんぜん古びて感じられないのはやはり「ダビンチ・コード」の影響もあるか。物語の主題がアラム語の翻訳作業と秘密の保守と探りあいという影響もあるが、携帯電話やICレコーダーなどがなくても成立する「歴史ミステリ」ってやはりすごい。ミステリーとSF、ホラー映画はそれぞれデジタル機器によってその舞台設定が難しくなったと考えていたがこの小説を読んであらためて「アナログ時代のほうが想像力を刺激する」と実感。題材は「ダビンチコード」とかなり重なるのだが、イエスがゴルゴダからさらに生き延びて別の土地へ…というテーマは西暦2000年代でも相当に話題をよんだが、1970年代だと「なんじゃそりゃ?」という目で読まれてしまったのかもしれない。「歴史ミステリ」という偏狭なジャンル区分に押し込めておくのにはもったいない作品。きわめて現実的で「救済」がないようにも見えるエンディングへ向けてひた走るが、それでもなお「神の奇跡」は雪のふるなかに最後、「ベアトリーチェ」が降臨してくる…

2010年4月25日日曜日

イエスの古文書 上巻(扶桑社)

著者:アーヴィング・ウォーレス 出版社:扶桑社 発行年:2005年 本体価格:819円
 1990年に亡くなったアーヴィング・ウォーレスのこの作品が再び2010年の書店の本棚に並び始めている理由。やはり「ダビンチ・コード」の影響によるものとしか考えられない。さらにこの本では複雑な人間関係と宗教団体との対立関係の基軸に「新しく発見された福音書」を題材として設定している。イエス・キリストが実際にはどの場所で何歳まで生きて、そして地理的にどこまで福音活動をしていたのか。実弟ヤコブの福音書は本物なのか。広告宣伝業界の若手ランダルはいかにして出版機密を保持して広告宣伝活動をおこなっていくのかといったミステリー仕立ての小説。基礎的な知識(現在の聖書は一定程度の編集が加えられたものでいわゆる外伝の福音書が他にもあることなど)があれば、さらに興味深く読み進めることができる。物語の始まりはやや「唐突」すぎる話でまっとうな人間であれば一笑に付すような展開だが、実際に「校正刷り」が出回り始め、さらにはその出版が現実味をおびていくにしたがって、物語の緊張感が増していく。登場人物の女性の会話の文体などがやや気にはなるものの、まだ何も「事件」が発生していない上巻でここまで熱中して読ませてくれる歴史ミステリーは貴重。

2010年4月18日日曜日

売春論(河出書房新社)

著者:酒井あゆみ 出版社:河出書房新社 発行年:2010年 本体価格:550円
 需要と供給のミスマッチ。ということで言えば、この著者が指摘するように、いわゆる風俗産業はデフレ状態に陥っている。需要がだんだん減少傾向にあるにもかかわらず、供給が逓増状態に。その結果、過当競争状態となり価格が低減していく。「表」の産業と「裏」の産業とは関係ないようでやはり密接な関係にある。「表」が不景気であれば、生活必需品以外の消費は先細りになる。したがって、「裏」の産業の売上高も激減するという次第。で、やはり指摘されているのは「心」の問題。
 身体の問題ではなく、メンタルケアの問題に言及しているのはやはり筆者自身が種々の風俗を経験してきたせいか。「入店して2週間もすれば自分自身のランキングを思い知る」という資本主義の原則が厳しい。男性にはそういう露骨な「人間=商品価値」という局面に陥るのはレアケースだと思うが(もちろん商品価値を思い知るという事態はリストラや転職などのときにはまた思い知るし、男性にだって売春はありうるが)、風貌や性格などにまで人気ランキングがつくというのはちょっと想像しにくい。だが、入店した段階でお店の待遇やランキングがすぱっと出てしまうというのは、偏差値社会以上に「心」に悪影響を及ぼすのだろう。後味の悪さは著者の文章から想像するしかないのだけれど、感覚の「くるい」や生活基盤の不安定さは、人間の心に悪い影響はあってもいい影響はやはりないと思うな…。この本、自分なりの位置づけで解釈すると、「マーケティング」って個人レベルで展開するのは無理があるし、メンタルヘルスにも悪いっていうことになりそうな。で、けっして自分自身の人生と無関係に別の人生が流れているわけじゃないっていう微妙な世界観になりそうな…。単純な「理論」で割り切れるものじゃないが、「お金」と「性」というどっちも底が見えない難しい世界に同時に直面した人間は、やはりどこか壊れていく宿命にあるのかもしれない。

2010年4月15日木曜日

42歳からのルール(明日香出版社)

著者:田中和彦 出版社:明日香出版社 発行年:2010年 本体価格:1400円
 けっこうそれなりに売れているようなビジネス本。タイトルの使い方がうまい。「42歳から」という設定もちょうどそれ以上の年齢の読者をつかまえる効果があると思う。一応常識レベルの話がかいてあるわけだがこの「常識」というのが曲者で、「癖のある上司」がある程度の期間にわたり自分のやり方をおしつけるとそれがいつの間にか「固定化」してしまうことも実際には多い。実は「職場のルール」のかなりの部分は限定された地域と「時間」でしか汎用性がないものだけれど、それが固定化されると「その悪しき習慣」にいつのまにか汚染されて固定化された発想とやり方しかおもいつかなくなる。これが一番怖い。強権的な支配力をもつ管理職こそ逆にそうした「ワンパターン」な発想を避けるべきだろう。「ポストは既得権ではない」という教えをなによりも肝に銘じて、公と私をしっかり使い分けることこそが重要ではないかと思う。「死について考える」というやや重いテーマをわりと最初の部分にあげているのも売れた理由のひとつか。

2010年4月11日日曜日

敵は我にあり 上巻(KKベストセラーズ)

著者:野村克也 出版社:KKベストセラーズ 発行年:2008年 本体価格:676円
 今回読んだのは新装版。実は昔発行されたバージョンも読んだのだが、今回装丁が新しくなったということで読み直し。いや面白い。「美しいものは機能的」という建築家の言葉を引用して守備陣形を解説するなど、野村元監督ならではの「わかりやすさ」がこめられている。「不器用は強い」などすでに名言として確定している種々の言葉がこのエッセイにはこめられているが、新装版として復活したのは、阪神の監督を退任されたあと、社会人野球をへて楽天球団で2位に快進撃した実績が読者に訴求したのだろう。いろいろな状況をふまえつつも集中する…という野球のエッセンスは大企業のビジネスパーソンにももちろん有用だろうが、中小企業であれこれこなさなくてはならないビジネスパーソンや中間管理職にはさらに応用可能な場面が多いのではないかと思う。どうしてもジャイアンツのような伝統ある老舗球団は大企業的な人材起用になるが、ヤクルト、阪神、楽天はいずれも弱小球団。かつて阪神で、左打者のワンポイントに遠山投手、右打者にかわってから葛西投手という系統が多かったが、できうるかぎりの解決策をみつけていこうという姿勢がよい。雰囲気を明るくするためにベンチ入りさせたというエピソードも紹介されているがそれは後年ヤクルトの監督をされていたときの金森コーチの起用にもつながるものを感じる。昭和のプロ野球の総括にもなるが、ひとりの名選手の原点を凝縮したような名作文庫本になっている。写真が2009年のものにさしかえられつつも今なお示唆に富む内容が名作の名作たるゆえんか。

公務員大崩落(朝日新聞出版)

著者:中野雅至 出版社:朝日新聞出版 発行年:2009年 本体価格:780円
 国家公務員と地方公務員の両方を経験した現役の学者が執筆。著者自身のキャリアから割りと中立公平で、しかも現場の重みや実感が伝わる内容になっていると思う。
 公益法人の改革は民法改正などで割合進んだが、この本で指摘されている「独立行政法人」や第三セクターについては確かに今後厳しい見方が広まるかもしれない。公務員の数そのものが多いとも少ないとも個人的には考えておらず、経済状況によって柔軟に運用していくべきだとも感じている。ただ柔軟に運用するということは、逆に考えると終身雇用制とは裏腹に各省庁の既得権益などには縛られない人数の変動や各省庁共通の人的管理にもつながる(経済産業省に人を多く配分したほうがよい時代もあれば、環境省に多く人を配分したほうがいい時代もこれからあるだろう)。だから「崩落」していくというよりもこれから「これまでは当然だったシステム」が「別のシステム」に生まれ変わっていく過渡期と考えたほうがよいのかもしれない。すでに中央省庁のキャリア組の転職(MBAを取得したあとの外資系コンサルティング会社などへの転職)はわりと話題になっているうえ政界への転身組も増えてきている。キャリア志向の若者はひとつのステップとして中央省庁をみなしていく可能性もあるし、最初から外資系などで実力を磨いていく時代が当然のことのようになっていくのかもしれない。そういう時代に昭和の「おいこら」的行政指導では確かに国家の運営そのものが成立しなくっていくのも当然だろう。

 だが…「崩落」していく「速度」はおそらく「公務員」の世界ではなく「民間企業」のほうが速いかもしれない。すでに民間企業では消滅しかかっている終身雇用制や年功序列制度が残存している「公務員」の世界に対して、民間企業は「次」のステップへ向けて新たな「崩落」を開始しつつある。この本に書かれている予測が実現する時代には、また別のシステムが民間企業で進行している可能性はかぎりなく高い。朝日新聞ですら赤字に転落して新聞市場が縮小傾向にある時代だ。政治や行政の世界よりもマスメディアや一般事業会社の「崩落」「再編成」の動きのほうが速く、またその後に「政府」がついていくというスタイルには大きな変化はないと思われる
 

経済ニュースの裏を読め!(TAC出版)

著者:三橋貴明 出版社:TAC出版 発行年:2009年 本体価格:1400円 評価:☆☆☆☆
 専門学校系の出版社から面白い経済書籍が出版された。新宿三省堂に積んであるのをみて速攻購入。独特の経済の分析で特にウェブ上で有名な三橋貴明氏の経済ニュースの「裏」を読むというこの本、非常に面白い。古典的なマクロ経済の体系を知っているとさらに面白いはずだが、経済の知識がなくても読んでいて面白いはず。「経済破綻」「年金問題」などトピカルなテーマをグラフと図解で分析。やや誤植があるものの、「語り口」が面白いのであまり気にならない。円キャリートレードなど難しめの取引もわかりやすく解説されているほか、「長期金利」「短期金利」といった用語の解説も充実。巻末のチェックシート付の索引も面白い構成だ。参考書に良く似た造りになっているが、こうした造りは「チャート式」を使っている(もしくは使っていた)日本人にはよく慣れた造りなので、非常に読みやすい入門書となっている。「個人的な見解」についてはその旨もしっかり本文に明記されているほか、やや主観的なところについても「断言できない」などの表現できっちり解説。アジア通貨危機から2009年12月ごろまでの時代を「復習」していくにも適した内容だといえるだろう。こういう一覧性のある図版の提供は、やはりウェブでは無理。あらためて書籍の面白さとメリットを知らしめてくれる書籍でもある。

IFRS財務会計入門(中央経済社)


著者:広瀬義州 出版社:中央経済社 発行年:2010年 本体価格:2800円 評価:☆☆☆☆☆
 2010年4月現在でもっとも最新の情報を一括して得られる情報源がこの本。雑誌やムックなどで散発的に報道されるIFRS(国債財務報告会計基準)と異なり、A級の研究者が体系的に解説してくれているので、理解が早くなり、さらにトピカルな話題をその体系に接木していくことができる。現状の変化の早さからかんがみると今後「アニュアルレポート」のように年度ごとに改訂版が必要になるかもしれないが、価格も2800円と最近高騰を続ける会計学の専門書のなかでは良心的。活字も読みやすく、また2色刷りとなっているので通学・通勤時にも読みやすいだろう。ただし判型がA5サイズとちょっと大きめで、読みやすさはますが運びやすさにはやや問題もある。一応仕訳や転記などの解説も掲載されているので、理屈では簿記会計をまったく知らない人でも入門書として利用できるが、実際には実務経験を一定積み重ねた人か、日商1級を取得している人でないと難しい部分もあるかもしれない。引用文献やウェブのURLがこまめに記載されているので興味がある部分については参考文献や該当のウェブページを見ることもできる。貸借対照表・損益計算書から包括利益計算書・財政状態変動計算書の時代へ移り変わる(もしくは両者が並存する)時代がもう目の前。会計学ブームはまだ一定程度持続しているが、さらに知識を磨きたいひとにはぜひオススメの内容。

できるかなV3(角川書店)

著者:西原理恵子 出版社:角川書店 発行年:2008年 本体価格:667円
 「ガチ」の西原ファンだったときには、新刊発行と同時に購入していた西原理恵子の本。今回は文庫本化されてから2年後に拝読。いきなり「脱税できるかな」から始まるとんでもない「第3弾」。まさかの池袋ハリウッドへのキャバレーデビューと第1弾、第2弾よりもパワーアップしている…。山田参助さんなる新たな漫画家も登場しているがこれもまた…。もっとも新刊を読まなくなったのは、『その後の事情』ってのがあらかじめファンには明らかだったからでもある…。つれーことはつれー事情ってのがあるけど、西原さんの場合にはそれをまた笑いでパワーアップして乗り越えていくあたりが立派。

シャッターアイランド(早川書房)

著者:デニス・ルヘイン 出版社:早川書房 発行年:2006年 本体価格:820円
 これからマーチン・スコセッシ監督による映画化作品が公開予定ということで2006年発行の文庫本ながら、書店では平積み状態。ただし映画のストーリーの紹介やこの本の「あおり文句」を期待して映画館にいくとおそらく失望しそうな予感も…。「フライト・プラン」でやはり同じような失望を味わったのだが、完全密室モノミステリーの場合、「フォーガットン」のように「宇宙人による多数派工作」のようなオチにするか、あるいはミッキー・ローク主演の「エンゼル・ハート」のようなオチにするか…というあたりに集約されてしまうが、この本、おそらく途中で大多数の読者は「オチ」に気がついてしまう。ただその後は「正気とは何か」といったような哲学的香りでなんとなく最後まで読んでしまうが、映画館でマーチン・スコセッシがそのあたりをどう扱っているのかが注目される(もっともストーリーってあんまりスコセッシは気にしていないのかもしれないが…)。時代設定は1950年代でちょうどマッカーシズムの嵐が吹き荒れている時代。時代背景とちょうどこの島を訪れる「連邦保安官」の心の傷が重なり合う…。

2010年4月10日土曜日

「夜のオンナ」はいくら稼ぐか?(角川書店)

著者:門倉貴史 出版社:角川出版 発行年:2006年 本体価格:686円
 やや統計データそのほかが古びてきてはいるのだがそれでも面白いこの「裏GDP」の分析。ある国への経済面での注目度が高まると文化面への興味が高まるという指摘(56ページ)など興味深い指摘が多い。統計データは待ち行列理論などを多用し、なるべく信頼度を高める努力を著者が試みようとしている姿勢も評価できる。もともと公的データが「ない」分野のため、類推や憶測に頼らざるをえない部分が多くなるのも当然だ。この本を読むとたとえば「スラムドッグ ミリオネア」(ダニー・ボイル監督)がアカデミー賞を受賞する「流れ」も当然のように思えてくる。ムンバイの映画村が「ボリウッド」と称される背景も理解できるし同時に「スラムドッグ」のラストシーンにもうなづけるものがでてくる。
 需要と供給の分析で「需要面」で「倒錯」した客が増えてきたのが価格の切り下げにつながってきているという指摘が面白い。新境地を開拓したいという需要側に対して供給側が追いつかない(あるいは多様性についていけない)という冷静な分析だが、誰もが等しく同じサービスを享受する…といった時代ではない以上、こうした「夜のビジネス」もマーケティングが必要になってきたということだろう。巻末には世界の裏ビジネスの状況の紹介や人身売買の実態なども特集されている。

フリー(NHK出版)

著者:クリス・アンダーソン 出版社:NHK出版 発行年:2009年 本体価格:1800円
 出版された瞬間に購入してそのまま「積んでおいた」。が、その後ベストセラーになりなぜか読む気がさらに失せ…。だがやはりベストセラーになるだけのことはあって、いったん読み始めるとそのままこの「フリー」の世界にはまってしまう。「R25」がなぜフリーなのにビジネスとして成立するか、SNSなどをはじめとして無料オンラインゲームがなぜゆえに収益を生み出すか。それはデジタルの場合には無限にコピーが可能であり、その無限の消費者のなかには希少価値をもとめてお金をだすユーザーがいる。99パーセントの無料ユーザーと1%の有料ユーザーによるビジネス。こういう展開は確かに1990年代には想定もできなかったが、なるほど、コンテンツさえ優良であればそれなりに顧客もまたつくという逆転の発想の世界。特にお金はあるけど時間がないというユーザーにとってはカード決済で無料ゲームのアイテムがそろえられるという「特典」は魅力的に思えるだろう。無料だから「お金はとれない」という発想ではなく、無料で複製が可能だからこそ成立するという発想はミュージシャンにも応用できるわけだが、著者は「著作権が守られても人気が得られるわけではない」という簡潔なメッセージで複製可能を肯定する。露出が激しいと人気が落ちるケースもありうるだろうが、露出が激しくCDが複製されてもコンサートやライブなどにお金を出すファンをしっかり獲得すれば、それなりにミュージシャンは利益を得られるわけだ。排他的な資源ではない、というあたりがこのデジタル資源の面白さか。

2010年4月5日月曜日

警察庁から来た男(角川春樹事務所)

著者:佐々木譲 出版社:角川春樹事務所 発行年:2008年 本体価格:629円
 北海道警シリーズ第2弾、というわけで「警察庁から来た男」藤川警視正が登場。ちょっと冷たい感じのする東大法学部卒の30代キャリアという設定。監察官として北海道県警本部を「探索」していくが、謎がとけていくきっかけは「萌え系喫茶」のボッタクリにあって殺害された一人の男だった…。フォーマル組織とインフォーマル組織の二元構造で会社は動く…というのがレスリスバーガーの経営学だったように記憶している。表向きの組織構造だけでは組織そのものは分析できない、ということで、それまでの機会人間的な組織分析の流れに一石を投じた経営学の研究だった。フォーディズムから一歩先をでた経営学の系譜からすると、「謎解き」は最初から自明なのだが、そうしたインフォーマルな組織が実際にはどう管理されているのかは謎だ。表向きの行政組織以外にも実際には同じ政治的信条、宗教的心情などいろいろ陰にはあるはずなのだが…。ということで、こういう本が売れれば売れるほど頭痛の種が増えるのが実際の北海道県警ではないかと推定。おそらく当時のトップはもう実際には入れ替わっているはずだが、このシリーズが飛ぶように売れているかぎりは「ああ、あの裏金事件の…」と言われるのはちとかわいそう。ただ映画化も間近にせまっているうえこのシリーズさらに続編がまたでてきそうな勢い…

笑う警官(角川春樹事務所)

著者:佐々木譲 出版社:角川春樹事務所 発行年:2007年 本体価格:686円
 なんと文庫版が2007年5月18日第1刷で、2009年7月6日で第40刷。で、内容ももちろん面白い。北海道警察本部を舞台にした殺人事件の捜査だが、その背後には「裏金」問題が横たわる。44歳の一匹狼的な刑事と。各部署の有志たちが自主的な捜査機関をもうけてタイムリミット内での「捜査」に走る…。「裏金」問題は、実際に発生した事件であることはつとに有名だが、それに対して「組織防衛」と「真実への追及」という二律背反の気持ちが現場にはあったはず。案外、この本を読んで「すっきりした」という北海道警察の警官も多いのではないだろうか。
 地方自治法100条に規定された100条委員会の権力の重さも伝わってくるが、いったんひとつの方向に動き始めたら方向転換はしにくい巨大ジャンボ機のような組織の弱さと、不安定ではあるものの機動性のある小さなチームの対比も面白い。運転免許証の服役期間の間は効力が失効しないなどというマメ知識も身についたりして、細かいところまで非常によくできているエンターテイメント。

2010年4月3日土曜日

おとなの男の心理学(KKベストセラーズ)

著者:香山リカ 出版社:KKベストセラーズ 発行年:2007年 本体価格:686円
 「効率性」を追求する人間と「自然体」を追及する人間が両翼に存在すると仮定すると、この本の著者はやはり「自然体」よりといえるだろう。その偏りをある程度わきまえて読み込んでいくと、やはり女性のほうが環境の変化には強く、男性のほうが環境には弱いという結論に。男性の更年期障害についてもページがさかれているのだが、案外この「更年期障害」については女性関係の本が多く男性の更年期障害の本は少ない。だからまあ、その部分だけでも読んで置くとけっこう役に立つ部分はあると思う。テストテロンの減少というホルモン要因に多くがありそうだがそれ以外にも遺伝子的要因や環境要因は当然あるだろう。ただし、著者は原因分析にはあまりこだわらず、「あるがままに」「将来をあまり心配しない」というのが一番と考えているようだ。確かに何が起こるのか将来はまったく予想が不可能。ある程度の予防措置をこうじたら、それ以降はあるがままに生きていくしかない。ただし「確実に予想しうる将来」については、健康面でも予防措置は必要だとは思うが…。「老い」を受け入れつつも、生活の質を保つ。けっこうそれって難しい。しかし難しいけれど人間は日々老いていくのだから、その対処方法についても難しい哲学的なことはヌキにして、生活レベルのこまごましたことで用意はしておきたい。家族、社会、未来へどこまで適応して自分自身と折り合いをつけるか。これ、やはり自分なりの生き方の問題に帰着すると思う。難しいテーマではあるけれど一定の年齢以上の男性はこれまでそうしたことにはまったく無関心で生きてくることができた。でもそれももう難しい時代になってきていることには気がつくべきなのだろう。