2010年4月18日日曜日

売春論(河出書房新社)

著者:酒井あゆみ 出版社:河出書房新社 発行年:2010年 本体価格:550円
 需要と供給のミスマッチ。ということで言えば、この著者が指摘するように、いわゆる風俗産業はデフレ状態に陥っている。需要がだんだん減少傾向にあるにもかかわらず、供給が逓増状態に。その結果、過当競争状態となり価格が低減していく。「表」の産業と「裏」の産業とは関係ないようでやはり密接な関係にある。「表」が不景気であれば、生活必需品以外の消費は先細りになる。したがって、「裏」の産業の売上高も激減するという次第。で、やはり指摘されているのは「心」の問題。
 身体の問題ではなく、メンタルケアの問題に言及しているのはやはり筆者自身が種々の風俗を経験してきたせいか。「入店して2週間もすれば自分自身のランキングを思い知る」という資本主義の原則が厳しい。男性にはそういう露骨な「人間=商品価値」という局面に陥るのはレアケースだと思うが(もちろん商品価値を思い知るという事態はリストラや転職などのときにはまた思い知るし、男性にだって売春はありうるが)、風貌や性格などにまで人気ランキングがつくというのはちょっと想像しにくい。だが、入店した段階でお店の待遇やランキングがすぱっと出てしまうというのは、偏差値社会以上に「心」に悪影響を及ぼすのだろう。後味の悪さは著者の文章から想像するしかないのだけれど、感覚の「くるい」や生活基盤の不安定さは、人間の心に悪い影響はあってもいい影響はやはりないと思うな…。この本、自分なりの位置づけで解釈すると、「マーケティング」って個人レベルで展開するのは無理があるし、メンタルヘルスにも悪いっていうことになりそうな。で、けっして自分自身の人生と無関係に別の人生が流れているわけじゃないっていう微妙な世界観になりそうな…。単純な「理論」で割り切れるものじゃないが、「お金」と「性」というどっちも底が見えない難しい世界に同時に直面した人間は、やはりどこか壊れていく宿命にあるのかもしれない。

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