2011年5月1日日曜日

原発事故残留汚染の危険性(朝日新聞出版社)

著者:武田邦彦 出版社:朝日新聞出版社 発行年:2011年 本体価格:1000円
テレビやネットの報道も迅速性があって頼もしいが、どうしても分散して情報が入ってくるため、体系的なまとめみたいな情報についてはやはり書籍がベスト。で、今年4月30日に緊急出版されたこの本だが早くも2刷で、しかも今日購入した書店では私が買った本が最後の1冊だった。レジの方が「あ…全部売り切れちゃいましたね…」と言っていたので、何冊か注文したものの棚にならべてすぐ購入した読者が多かったのだろう。
この本では福島原子力発電所をおそった地震の規模と津波の高さを検証する。それが1000年に1度の大規模災害に相当するのかどうかといった検証だが、発電所付近の震度は6程度、津波の高さも10メートルということで、1000年に1度ということはなく、むしろ想定してしかるべき範囲の災害だったことをデータで立証。さらに非常用電源が同じ敷地内に設置されていたことを問題視する(この非常用電源の設置場所については素人目にも不可思議な設置方法だった)。日本経団連や金融業関係の会社は、東京電力の損害賠償は1500億円を限度とするのが妥当という見解を多くもっているようだが、いずれこの災害と原子力発電所の事故との関係は裁判所に持ち込まれる。そのさいにまた原子力発電所付近の震度と津波対策、非常用電源の設置場所などの適否が法廷で争われることになるだろう。電源の多重化はリスク回避のためには当然の措置だがそれがなされていなかったとすれば、地震に付随して発生した人災という可能性が高い。となれば、東京電力はやはり政府が主張しているように一義的に債務を弁済する義務を負うことになるだろう。経済団体の思惑とは別個にIAEAなど国際的機関のレビューなども法廷では証拠として採用されることになるだろうから、案外早期にこうした裁判も結審する可能性が高い。エネルギー問題ではとかく反論を呼んだ武田氏だが、この本でも原子力行政にたずさわってきた自らと知人の学者、保安院などに対して「私たちは失敗したのです」と淡々とよびかける文章が切ない。今後10年、20年、30年、そして100年後も検証が続けられるであろうこの原子力発電所の事故についてはまだ未解明の事柄が多い。ただしその失敗も含めて克明に記録し、後世にそのミスの原因を伝えるとともに関係諸国にもデータを提供するのがおそらく日本に課された歴史的、国際的義務だろう。もはや株式会社の取締役の進退などのレベルはとうに過ぎ去った。

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