2011年5月22日日曜日

貸し込み(上)(下)

著者:黒木亮 出版社:角川書店 発行年:2010年(文庫版) 本体価格:629円(上巻)・705円(下巻)
黒木亮氏の著作物には国際金融が多いが、この本は主人公はアメリカの投資銀行家だが、舞台はあくまで日本。しかも登場してくる銀行は日本にかつて実在した関西系の何某都市銀行。エピソードの多くは裁判所にさかれるが、準備書面の内容から証拠書類、口述など臨場感あふれる描写が多数。日本の裁判における偽証罪の扱いの軽さや意思能力の鑑定などが興味深い。金融機関側の人間についてはかなり取材と実際の人物を「あて書き」しているものと推定される。「底なし沼のような目をした二重瞼」の「秘書役」というのは実際のS銀行のなかにいた人物だろうし、多少設定は変えてあるが金融庁に資料を隠蔽した所在を連絡したのは実際の東海地方に営業力をもっていたT銀行。部分部分で実際の人物や組織を想像できるように書き、脚色部分は脚色部分として読める内容で、しかもこの本はミステリーとしても優れた内容だ。事理弁識能力が欠けた顧客に20億を超える融資をおこない、さらには裁判に対しては和解せずに判決まで持ち込むというこのエピソード、最終的にはモデルとなった銀行の「終末」と同様に一定の解決をみるが、実際のモデルがたとえわからない読者にとっても興味深く、面白い内容になっている。さすがに現在ではこういう乱暴な金融機関は減少していると思うが、1980年代~90年代にバブル時代の乱脈融資とその強引な後始末は「金融機関の強引さ」という意味では一貫していたことが窺われる。とはいえ、組織の風土は一定程度は脈々と受け継がれていく。こういう「強引な文化」の遺伝子とそれに反発する一部の金融マンっていう構図、多少は変化しても今でも共通する部分があるのかもしれない。

2 件のコメント:

ルシアン さんのコメント...

ごとりんさん こんにちは

ご無沙汰しております、お元気でいらっしゃいましたか?

相変わらず沢山の本を読んでいらっしゃいますね。
私は最近老犬になってしまったワンコにかかりきりで(汗)
映画も観ていないし、本も読んでいない・・・
そしてブログもあちこち放置状態になっちゃっています。

そんな中、リフレッシュ休暇と会社支給の旅行券を
使って中欧旅行をしてまいりました(2月ですが 汗)
オーストリア、ハンガリー、チェコ、スロバキアの四カ国を
8日間で巡るという慌しいツアーでしたが、
やはり冬の欧羅巴は寒さに震えながらも素敵でしたよ(笑)
先日からその旅行記をやっと書き始めました。

またお時間のあるときにでも覗いてみてくださいませ
FC2サイトからはまだリンクさせていないので
eclat の方のアドレスを書かせていただきます。

ではではまたお邪魔します~
BBSが見当たらなかったのでこちらにカキコさせて
いただきますね。

ルシアン

gie さんのコメント...

>ルシアンさん こんばんは==そしてコメントありがとうございます。
 掲示板は管理にいろいろあるので閉鎖してしまい、現在はこうしたブログのコメント欄で代替していますがBBS特有の活気はまた懐かしく、いずれ復活したいなーと思っています。やはりいかれましたかヨーロッパ。ハプスブルグ家に愛着をもっているのでオーストリアとハンガリーへの旅はうらやましいです。震災の前である意味では良かったですね。
 映画もぼちぼち見ているのですが最近は海外ドラマにだいぶ時間をとられています。昔は海外ドラマはほとんど見なかったのですが、何本ものDVDで登場人物を丁寧に描写する手法は、面白いですね。海外のブログのほうものちほどお邪魔させていただきますね。