2011年5月29日日曜日

累犯障害者(新潮社)

著者:山本譲司 出版社:新潮社 発行年:2009年(文庫本) 本体価格:476円(文庫本) 評価:☆☆☆☆☆
著者はかつて管直人内閣総理大臣の公設秘書、衆議院議員。その後、秘書給与流用事件で実刑判決を受ける。その実刑に服した期間の様子は「獄窓記」として別にルポタージュ化。この本も名作だったが、知的障碍者と犯罪の関係を描写したこの本も名作だ。障害者年金手帳を確保して「搾取」を続けるヤクザなどが描写されている。養子縁組で複数の知的障害者の養子を「確保」しアパートに詰め込んで、その名義で携帯電話などの契約を結んだりもするエピソードが印象的(養父や強要や覚せい剤取締法違反などで実刑判決。養子縁組の無効を求める訴訟でこの被害者は家庭裁判所から養子縁組の無効の判決を獲得している)。また全国に50箇所しかないとされている婦人保護施設、32~60箇所の情緒障害時短期治療施設や偽装結婚のエピソードも興味深い。ここでも偽装結婚(韓国の男性と日本の女性、韓国の女性と日本の男性)に知的障害者が「食い物」にされている実情が記されている。愛知県の浜松ろうあ者殺人事件(かつて日本の刑法40条に聾唖者の刑を軽減するという条文があった。現在は削除)を取り扱った章では、「手話辞典」の日本語文法と実際の文法との差などが紹介されている。また監獄法から受刑者処遇法に改組(法)されるプロセスなど。触法障碍者という分類になるが、この本がきっかけとなって、これまで一種タブーにもなってきた触法障碍者の「矯正」というテーマが表だって取り組まれるようになってきたことが文庫版のあとがきに記されている。セーフティネットという言葉は、イメージとしてはせいぜい低所得者への所得補助といった感じだが、この本の生々しい現実を見ると税金の使い道や福祉のあり方などはそれほど甘いものではないことがわかる。

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