2011年1月23日日曜日

競争と公平感(中央公論新社)

著者:大竹文雄 出版社:中央公論新社 発行年:2010年 本体価格:780円
若手というには失礼かも。もはやベテランさらには新聞などでもコメントをもとめられることが多い大竹文雄教授の経済学の新書。2010年度のベスト1にも選出された本だけあって、内容的にはかなり難しいことをわかりやすく説明してくれている。これがもし方程式だのなんだのが羅列してある本だとここまで話題になったかどうか。市場競争による質の向上と格差の拡大があったとして、その次にくる「所得の再分配」という問題をバランスよく説明。現在の政府では大きな政府でもなく、かといって市場競争に特化しているわけでもなく、さらには所得の再分配システムすら機能していない事情をわかりやすく説明。日本人は市場にたいして期待を多くもっているわけでもなく、かといって大きな政府についても警戒感をもっているというバックボーンもわかりやすく説明してくれる。「統計による違い」についても(そういえば学生時代に統計のクセという授業を受けた記憶はあったが)この新書サイズでさらっと説明してくれている。この手の本で平積みになっているケースはきわめて稀であろう。労働者派遣法や正社員の解雇濫用法理などについても、説明されている。労働市場をいびつにさせている原因は、正社員に簡単になれたうえに解雇そのものもめったにできないという判例の積み重ねと法改正ではないかという結論になっている。通常、失業が発生すれば実質賃金が低下して労働者需要が増加する…ただ賃金市場だけは下方硬直性があるというのが古来からの理論。日本の場合には既得権益となっている正社員の賃金硬直性がさらに労働者派遣の問題を複雑にさせている。正社員が既得権益である解雇法理を作り変え、さらにスキルなどをマスターできる技能講習の場が設定され、日本社会の全員がいわば「労働契約」であれこれ自由に移動できるのであれば、現在の5パーセント以上の失業率も緩和されると思う。既得権益が強すぎて経営者も正社員の増加にはなかなかふみきれないというのが実際のところではないのか。これはいわゆる経営者の問題だけにとどまらず、労働者の既得権益を必要以上に守ろうとする労働組合の取り組み方にも問題があると思う。自分たちは安全圏で、自分たち以外の派遣労働者を組織に取り込んで労働運動を展開していこうとする試み。すでに若年労働者には底がみすかされているような気がするのだが。

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