2011年1月10日月曜日

警察の誕生(集英社)

著者:菊池良生 出版社:集英社 発行年:2010年 本体価格:700円
江戸時代の「警察」は奉行以下、与力、同心南北の町奉行所をあわせて約250人で大江戸50万人の行政・司法・警察関係をうけもっていたという。これにはもちろん非公式捜査員など表にでてこないプライベート警察官(岡っ引きなど)がいたためだがそれでも少ない。江戸時代独特の「五人組制度」など相互監視の制度も治安に貢献していたとみていいのだろう。この本ではそうした江戸のエピソードから、ローマ時代、中世ゲルマン民族の警察、中世都市の警察へと焦点が絞られていく。いずれもボランティア中心の警察や市警備隊として薄給の警察業務の兼務ということで「質」の高い警察組織にはまだなっていない。16世紀パリの時代となり、バロア王朝からブルボン王朝に変化したばかりのパリはすぐに30年戦争に巻き込まれる。そこで登場したルイ14世と財務総監コルベールが、警察条例を発布。警察長官の職も新設する。この次期のパリの警察は言論統制、経済活動の監視・都市計画・保健衛生など都市行政をつかさどる広範な権限を有していたというから、今でいえば、「公安警察+公正取引委員会+国土交通省+保健所」という4つの役割を1つでまかなっていたということになる。初代長官ラ・レニーは行政面を重視し、二代目のルネ・ダルジャルソンは犯罪捜査の組織作りを重視した。このルネ・ダルジャルソンが作り上げた情報収集組織こそが後に共和制の時代にもナポレオンの時代にもさらに王政復古の時代にも生き延びたジョセウ・フーシュというきわめて息の長い警察官僚出身の政治家を生み出すことになる。フランスは以上のようなどちらかといえば中央集権体制的な警察組織を作り上げていったが、英国は、地方分権的な警察組織を作り上げていく。そして日本からフランスに留学していた川路利路は、フランスの中央集権的警察組織を日本に輸入していこうとするのだ。
民法については司馬遼太郎の「歳月」が江藤新平が輸入しようとした民法の体系(フランス)の様子などをことこまかく著述しており、民法を学習するものは「歳月」を読め、とまでいわれたりもするが、日本の警察の源流をたどっていくのであればやはりこの本と、さらにフランスの警察誕生のゆわれと変遷を調べ行くことになるだろう。えぴそードがあちこちにちりばめられており、非常に面白い。

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