2010年5月17日月曜日

死体の犯罪心理学(アスキー・メディアワークス)

著者:上野正彦 出版社:アスキーメディアワークス 発行年:2010年 本体価格:743円
 元監察医による最近発生した殺人事件を中心に「死体」についての所見が述べられている。やはりプロというべきか、マスコミにそのおりおりにコメントした内容も率直に掲載されているのだが、当然外れていた部分もあればあたっている部分もある。概して死体の状況から推察した「事実」のほうがあたっている…というのがプロのプロたるゆえんか。「バラバラ殺人事件は猟奇的ではない」という指摘にもうなづけるものがある。サンケイ新聞から公判記録も出版されている「新宿・渋谷エリート殺人事件」の被告の心理についてもかなり詳しい洞察がなされており、「死体」と「殺害現場」の状況から確かに読み取れる一定の心理状態がある。個人的にも関心が深い「江東マンション神隠し殺人事件」では、容疑者が殺害後、どこで風呂をあびていたのか、という戦慄するような疑問で文章が終わる。これがバラバラ殺人の現場である自宅の風呂をあびていたのであれば心理状態に相当「異常」な面があるという指摘だ。
 さらに秋田連続児童殺人事件では(これもサンケイ新聞から後半記録が出版されている)、被告の自白にも嘘があるのではないかという疑問が提出される。水死体の「痛み具合」から類推した疑問点だが、すでに有罪判決が一審・二審でおりてはいるものの事実認定の面からみると重要な疑問だ(もし殺害現場が自白どおりではなかった…ということになると、この被告は嘘の自白で嘘の情状酌量をえている可能性すらでてくる)。真実はもちろん闇の中。ただし監察医としての経験が暗黙知として後輩に継承する場所がない、というのには驚いた。大学の法医学や警察大学校などで講義でもすれば、その経験は警察にも引き継がれ、同じような犯罪の抑止力にもなるだろう。縁の下の力持ちである監察医。だがそこに蓄積された著述できない「経験」と「判断」は貴重な法医学の財産ではないかと思えてくる。

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