2010年5月9日日曜日

検察が危ない(KKベストセラーズ)

著者:郷原信郎 出版社:KKベストセラーズ 発行年:2010年 本体価格:686円
 検察庁がじゃっかん「苦境」に陥っているようにみえるのは、素人の私の目だけではなかったらしい。「検察の正義」(ちくま新書)でも著者は検察庁の捜査体制についてかなり厳しい意見を表明しているが、この本でも2009年から始まる一連の西松建設事件からの検察庁の捜査・立件の流れについてこと細かく問題点を指摘している。一番の極論としては捜査は警察庁へ、公判は検察庁へと2つに分離してしまうことになるが、日本の警察は自治体警察であるため、たとえば国家全体をゆるがすような疑獄事件や自治体をまたいだ凶悪犯罪などには必ずしも機動的な対応がとれるとはかぎらない。最終的にはアメリカのFBIのような警察の存在が必要不可欠ということになるが、時代の変化とともに東京地検特捜部の役割も今後その機能を変化させていく契機になるのかもしれない。特に経済事件については法律の解釈そのほかについてあまりに社会全体に与える影響が大きいほか、一審・二審ともに有罪判決を獲得しながら最高裁で逆転無罪となった旧日本長期信用銀行の経営陣に対する事件などもいろいろ反省点が残る。公正取引委員会との協力体制や記者クラブとの関係についても見直しが必要だろう。朝日新聞・読売新聞・毎日新聞・産経新聞・日本経済新聞と全国紙のほとんどすべてが検察庁擁護の「提灯パレード」記事で、批判的な意見はウェブかもしくは週刊誌ジャーナリズムでの「週刊朝日」「週刊ポスト」といったあたりしかみられない(いずれも記者クラブには所属していない)のも問題だ。小沢一郎氏の陸山会に問題がまったくないとはいわないが、近代司法の流れは「疑わしきは罰せず」。「多少疑わしければ特捜部でしょっぴけ」的な強引な手法も、あと10年、20年経過すると相当な社会批判をあびるほか、100年後、200年後の法学史や判例などではたして後世の批判に耐えうるものかどうか。こうした経済事件はアーカイブ化されてかならず100年後にもひとつの資料として活用されていく。後世の歴史家・法律家の「目」」についても検察庁は意識をしたほうがいいと考えられる。

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