2009年9月19日土曜日

東京島(新潮社)

著者:桐野夏生 出版社:新潮社 発行年:2008年
 人間は「架空」の世界を現実と思い込み、知らず知らずのうちに自分自身を正当化して虚実乱れた社会が整然と、そして静かに進行していく…。むちゃくちゃな設定のようでいて、しかしいかにも自然な流れでラストに向かって終結していく様子はフィクションではあるけれども限りなくノンフィクションに近い複数の人間の営みの様子。主役の清子は46歳という設定だが孤立した島に漂着したのは41歳という設定。正直、まあ、あまり艶っぽい話になる設定ではないのだけれど、それがさまざまな漂流物とともに人格そのものも変貌し、狭い島の中で人間関係も変化していく。そしてその後の日本と孤立した島社会とでそれぞれ違う歴史が語られていくのだが、それはそれぞれの「現在」を正当化していくのに都合のいい部分のみで構成されていくのが興味深い。「15少年漂流記」と異なるのは、未来のある少年だけが漂流したのではなく、未来のない大人たちのみが島に漂着したという点だ。未来がない人間がさらに未来のない状況におかれたときにどうなるか。いかなる理想も哲学も捨て去ったときに人間はどう行動するのか。そうした仮定のもとで構成された桐野ワールドはなぜかいつもの作品とは違って、なんとなくハッピーエンドのようにも思える。

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