2009年9月13日日曜日

違法弁護(講談社)

著者:中嶋博行 出版社:講談社 発行年:1998年 評価:☆☆☆☆☆
 現在話題の司法改革が始まったころにこの物語は始まる。年間500人程度の合格者しか出ていなかった司法試験の増員が決まったころ、来るべき弁護士の生き残り作戦をかけて、日弁連の委員でもある財前弁護士は横浜に国際法務を専門とする巨大ファームを設立する。その一方、警邏中の神奈川県警の巡査が職務質問をしようとした横浜埠頭の倉庫で射殺されるという事件が発生。神奈川県警捜査一課が捜査に乗り出すが、警察庁公安課と検察庁公安の捜査妨害に。刑事警察と公安警察、経済検察と公安検察のそれぞれの思惑とからみあい、射殺事件が思わぬ展開をみせてくる…。
 いろいろな会計用語や法律用語がでてくるがさりげなく著者のわかりやすい解説が挿入されてていて、読みにくさはまったくない。現役弁護士によるリアルな描写がストーリーに迫真さを与える。刑事事件の現況調査と民事事件の差し押さえの同日の一致など、本来はありえないであろう出来事がこの小説の中に描写されるとともに、並行輸入で大きな利益をあげている輸入貿易会社の企業集団を財務諸表の裏側(取引先記録)からあぶりだしていく手法などが面白い。捜査令状ととった会社が最終的にその捜査を免れるために思い出した手法などは、明らかに会社法の立法趣旨を超えた手段だが、確かにこの小説の中で描かれているような手法だと、刑事捜査の令状が意味をもたなくなる。「違法弁護」のタイトルの所以だ。若干26歳の野心あふれる女性弁護士と徹夜続きの捜査一課の刑事たち、そして冷戦終結後の公安調査庁や公安警察の当時の組織防衛の行動原理など、今ふりかえってみても非常に興味深いフィクションとなっている。官庁の「格付け」というのがここまで露骨に描写されているのもあまり例がないのではないか。読み出したら、一気に最後まで読み通さざるを得ないほどの面白さ。443ページ〔ノンブル部分〕

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