2008年10月5日日曜日

歩兵の本領(講談社)

著者:浅田次郎 出版社:講談社 発行年:2004年 評価:☆☆☆
「アムール河の流血」からタイトル。全部で9つの短編がおさめられているがすべて高度経済成長期の自衛隊員の物語。いわゆる「地連」に勧誘されて入隊した自衛隊員の感じた気持ちをいろいろな角度から描写している。今と違うのは、自衛隊の立場は「国際貢献」という新たな形で展開されてきていることと、国家公務員として人気を得ているということ。そして高度経済成長期にあった「左右対立」が現在では「保守主義の現実路線の対立」に変化してきていること。自衛隊に旧陸軍のOBが存在しないことだろうか。自衛隊内部で温存されていた旧陸軍の「鉄拳制裁」も小説では描写されており、必ずしも自衛隊賛歌という話ばかりではないが、それでも読み終わったあと、これまで一方的に描写されてきた左派学生の物語とはまた違う青春群像が心に残る。ピースマークをつけた学生のゲバルトの中にもいろいろな青春群像があったごとく、自衛隊に入隊するしか他に道がなかった当時の若者の生き様がまた胸をうつ。浅田次郎の作品に最初ふれたのは10年ぐらい前の、「ヤクザ稼業」シリーズだった。インテリ企業舎弟の「手口」を面白おかしく紹介した一連の作品は非常に現実世界の勉強になると同時に、泣き笑いのツボが見事におさえていた。その後、「蒼穹の昴」を読んで天才だと思い、続々と読破。ただ「鉄道員」で直木賞を受賞してからの作品はあまり読まなかったのだが、しばらくぶりに浅田次郎の作品を読んでみて、「やっぱり才能あるなあ…」と思った短編集。人間が構成する集団でしかも日本の自衛隊は過去の他国の軍隊とはまた違うパーソナリティで組織を動かす必要性もある。そんな中で良い伝統を継承していくのは…と自衛隊OBの浅田氏の自問自答もこの短編集の中で繰り返されている思いもする。

0 件のコメント: