2008年10月22日水曜日

3年で辞めた若者はどこへ行ったのか~アウトサイダーの時代~(筑摩書房)

著者:城繁幸 出版社:筑摩書房 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆☆
 「世代間闘争」について非常に敏感に反応している著者だと思うし、限られた経済資源をどのように配分していくかは、経済学の重要なテーマである。国の財政も企業の福利厚生も一種の経済資源だが、それが特定の世代が集中して享受している時代。それが現在であり、この本で最大の問題点として設定されているところだろう。したがって206ページ以降において、既存の労働運動や社会民主党、日本共産党のあり方について著者が疑念を呈しているのも無理なからぬところである。すべては、構造改革路線を推進してきた自由民主党が悪い…という論理展開は今ではあまり意味も説得力もない。現在では、経済資源のかなりの部分を享受している中高年の労働者層、特に年金も含めて団塊世代優遇の時代だから、若年層とは必然的に対立構造が起こる。非正規雇用者と正社員の対立構図に持ち込みたがるケースもあるが、広くみれば、これまで獲得してきた経済資源の積分値が異常に高い団塊の世代と、これからも低い積分値しか予測できない若年世代との構図で、労働者政党もそのトップは50代以上の団塊の世代とあっては、若年の加入者が減少するのも当然だし、インディペンデンス系統のメーデーが開催されるのも当然の現象になるだろう。「真の改革とは既得権にメスを入れること」という著者の主張は正しい。ただこの著者の主張は実は、経営者や自由民主党だけではなく、既存の労働組合や団塊の世代の年金受給の問題もはらむ。与党の批判だけはいせいがいいが、かといって自分たちの受給金額を減少させてそれを若い世代に配分する、もしくは自分たちの月給の切り下げをしてその分若年層の基本給に反映させていく…といった同じ雇用者の中での配分の差異についても切り込める労働団体がでてこないかぎり、おそらくネット難民やニートの問題だけ拾い上げてもあまり大きな支持を若い世代から受けることはないに違いない。かなりの部分は著者の主張に賛成で昭和的価値観と平成的価値観の2分対立軸でこの本は構成されている。「老人は弱者ではない」などと挑発的な文章もある一方で、冷静な観察力と、そしてなによりも実際に売れているという事実が著者への共感が多いことを示している。「既得権」といえばどうしても官僚、と短絡的な連想にうごきがちだが、はたしてそうなのかどうなのかは自分たちの周囲をみてみればすぐ答えはでてくる問題だ。非常に面白い新書本でぜひ一読のお勧め。

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