2008年8月8日金曜日

顔 FACE(徳間書店)

著者名:横山秀夫 出版社:徳間書店 発行年:2002年
 D県警広報室に勤務する平野瑞穂巡査を中心に展開する「顔」「似顔絵」をテーマにした警察小説。全部で5つの短編小説が納められ,主人公のかつての失踪事件などもからめつつ,次第に上層部との「取引」も覚え,ラストにはついに銃を犯人に向ける…。「観察力」と「デッサン」の力を両方あわせもち,単に強行犯対策にたけた警官ばかりでなく,多種多様な能力が実際に必要な場面が増えてきているのだろう。小説の中ではかなりの「大ポカ」も紹介されているが,似顔絵を描く力がそのまま観察力が活用された事例として物語りに活かされている。小さな警察署が舞台ではあるが,各課の人間模様や宿舎の様子などがリアルである。同時進行でいろいろな立場の人間の心模様を描くスタイルが非常に面白い。ある人からみたある人の印象が,また主人公を変えると別の側面が見えてくる。特殊な社会ではあるが,特殊な社会であるがゆえに人間の複雑な陰影がまた見えてくる。こうした物語を紡ぐことができる横山秀夫氏,やはり新聞社で実際に「地回り」など取材を重ねてきた経験が活かされているのだろう。いわゆる「隠語」が飛び交う会話も生々しい。

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