2008年8月18日月曜日

陰の季節(文藝春秋)

著者:横山秀夫 出版社:文藝春秋 発行年:2001年
 単行本で出版されたのは1998年。ただし10年間という時間の経過を感じさせない斬新さだ。短編集だが,そのそれぞれが膨らませられ,あるいは他の短編と一緒に統合される形でテレビ番組として放映。いずれも人気を誇るシリーズと聞くが,原作もやはり素晴らしい。第5回松本清張賞を受賞した短編集だが,警察内部の各部署の思惑や組織維持の原理が小説仕立てで細かく設定されており,非常に面白い。実際の警察署がどうとかこうとかという問題ではなく,面白いかどうかは,「準拠枠」をしっかり設定しているかどうかにかかっている。「吸血鬼ドラキュラ」が名作であり続けるのは,物語の「準拠枠」がしっかりしているからこそであって,「ドラキュラなんてこの世に存在しないよ」といってしまえばそれまで。エンターテイメントの最大の魅力はしっかりした設定と細かい状況の描写。そしてその準拠枠の中で納得のいく物語の進行だ。胃潰瘍の術後の検診のあとに県警本部に戻ろうとする人間など,実際にありうるであろう等身大の人間たちがこの短編集の中で等身大の活動を相互におこない,相互に思わぬ結果を導き出す。人間ドラマとしてこれ以上の「仕掛け」はあるまい。

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