2008年8月17日日曜日

霞ヶ関埋蔵金男が明かす「お国の経済」(文藝春秋)

著者:高橋洋一 出版社:文藝春秋 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆☆
 「小さな政府」か「大きな政府」かという大きな対立点から見て行くと,高橋洋一氏は「小さな政府」のほうがベターと考えているようだ。インタビュー形式でまとめられた新書サイズの本だがさすがに文藝春秋社だけあって,内容は深くて濃い。章立てもわかりやすくまとめられており,インタビュアーの質問も鋭い。埋蔵金の本当の意味やそのネーミングのいわれなどが第1章から語られるが,やはり「これから」を語る第4章がことさらに面白い。国家公務員制度改革などについて語られているのだが,「年功序列の廃止」と「天下りの廃止」のための「人材バンク」についてその基本構想が明らかにされる。内閣人事庁を設立して省益中心の人事を打破して内閣のコントロールを強めていく…。どう考えても全省庁すべてから総スカンをくらう内容だが,興味深いのは,「根底には経済理論がある」と前書で断り書きがしてあること。単に省益を打破するというだけではなく,限られた人材資源(ヒューマンリソース)を適材適所に配分して生産の効率性を高めていこうという思想も見え隠れする。20代,30代の官僚からは密かに支持されていると著者は語るが,おそらくそれは事実だろう。ただし40代,50代はもはや「天下り直前」であるため,20代,30代よりも切実な問題が目の前に横たわる。公務員改革を断行するにはまだ10年以上はかかるかもしれないが,今の若い世代が「天下り直前世代」に突入するとまた局面は変化するかもしれない。正直,「省庁」とはいっても20代前半にまず国家試験に合格したあとに,省庁をまわって面接,それから入省という形になるわけで,それほど一般企業と就職形態が異なるわけではない。本当は財務省に行きたかったがやむなく○○省しか内定がでなかった…という官僚もいるはずだし,そうした「第二志望就職」のキャリアの中には,「本来はこの仕事は向いていないのだが…」とぶつぶつ言いながら毎日を過ごすこともあるかもしれない。しかし省を離れて人事庁ができれば,かなり仕事の「幅」は広がる。一つの組織内の閉鎖された中で事務効率や人間関係を構築するよりももっと広い分野の仕事に挑戦できるわけだから,若手官僚は「ひっそり」支持することもあるだろう。そして「三位一体」(地方交付税,地方税,補助金)のうち地方交付税について「なんのしばりもない」ので地方公共団体にはありがたいシステムと指摘し,地方税の税源委譲や地方分権への橋渡しについて減給されるところが圧巻。最終的には道州制の話までいくのだが,そこまでは実際には難しいのではないかとさすがに思う。ただし一つのモデルがコンパクトなこの新書サイズで示されているという内容の充実度は最初から最後まで素晴らしい。☆5つだが,実現可能性については実際のところ10パーセント以下ではなかろうか。ただ一つの「指針」として提示した内容は意味あるものだと考える。

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