2008年8月14日木曜日

第三の時効(集英社)

著者名:横山秀夫 出版社:集英社 発行年:2006年 評価:☆☆☆☆
 「警察小説」の新たな地平を開いたといわれる横山秀夫の著作物にはまっている。とにかく面白いのだが,なぜゆえに面白いのかというと,おそらくむちゃくちゃ天才的な刑事とか体力勝負の刑事が大活躍といった展開とはまるで逆の,どちらかといえば企業小説にも通じるドロドロした人間関係の中から浮かび上がる真相のプロセスが面白いのだろうと思う。舞台を警察署から企業や政府自治体に移してもおそらく同じような物語はあるのだろうけれど,新聞記者として実際に取材活動にたずさわっていた横山氏だからこそ書ける細部までの描写ゆえの名作短編集なのだろう。この「第三の時効」ではめずらしく警察署の花形部署「捜査一課強行犯捜査」の一係から三係までの各刑事が主役となる。地方裁判所での逮捕した容疑者の罪状認否を聞きに傍聴席に向かう理由そのほかがまたリアリティがある。特に二班の班長楠見の人物描写がすさまじい。公安警察から異例の「表舞台」の強行犯担当の班長に抜擢。機械装置のような取調べから容疑者の割り出しなど,小説とはトテモ思えないほどリアリティのある人物描写だ。3人の班長がそれぞれのキャラクターを活かして捜査にあたるがそれぞれの「班」ごとに功績を無言で争う描写もまたリアル。「いかに早く適正に逮捕して刑務所に送り込むか」という男だらけの美学の世界。ドライな世界の中に微妙な「泣かせ」の文章が入るのが心憎いばかり。

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