2008年8月20日水曜日

深追い(新潮社)

著者:横山秀夫 出版社:新潮社 発行年:2007年
 架空の警察署「三ツ鐘署」の異なる部署に勤務する7人の男のそれぞれのドラマを短編集として一冊にまとめあげたもの。「建物」という空間の中に相互にまったく面識はないが,かなりの時間を共有している人間たちが,それぞれ現在の仕事に,あるいは過去の想い出に,あるいは家庭の中にドラマをかかえもち,それがある日,動き出す。どれも最初は些細な出来事なのだが,それが次第に奥深い人間模様を描き出す。日常生活になれきったある思いもかけないときに,「とんでもないこと」に巻き込まれたことは,大抵の人にはあるはずだが,その「ある日起きたとんでもないこと」に同じ建物の中の人間たちがそれぞれ別の日に別のシチュエーションで巻き込まれていくのが面白い。これが単にバラバラの「建物」のバラバラの人間が登場するだけではこの短編集はここまで面白くはならなかっただろう。個人的には「会計係」のある日を描いた「人ごと」が切なく侘しく,そして最後に「救い」がほのかに見えるのが好き。

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