2008年8月9日土曜日

臨場(光文社)

著者名:横山秀夫 出版社:光文社 発行年:2007年 評価:☆☆☆
 警察の初期捜査で事件現場を調査・監察して初動捜査にあたることを「臨場」と言うそうだ。たとえば死体が発見されたときに自殺か他殺かなど初動捜査の方針を立案する。L県警本部刑事部捜査一課の倉石義男捜査一課調査官が主人公。ベテラン刑事からは「校長」などと親しみをこめてよばれることも多いが偏屈な側面も。職人肌の倉石は「終身検視官」との異名も取っていた。ミステリーとして小さな植物の種類や特性などももちろんだが,現場の「匂い」などわずかな手がかりも逃さず,「現場」に起こった出来事を類推する。壮絶なのは「17年蝉」という短編だ。倉石自体の「その後」も類推させるエピソードだが,なによりも深い人情がこめられたその捜査ぶりに胸が熱くなる。16年間土の中にいて17年目に飛び立つ蝉。それは,過去に「いろいろあった刑事」の心をも解放する。それぞれの人間がそれぞれの事情を抱えてそれでもなお「法律の都合」を超える犯罪者となる瞬間に倉石の捜査は人情味をかなぐりすてて深層までつきつめていく。冷酷ともいえる瞬間だが,最後の最後に,読者は倉石調査官から「餞」をもらうことになる。面白い短編集であることはもちろんだが,職人肌の人間は「職」だけのことではなく「人」についても考えをつきつめていくという人情小説でもある。

0 件のコメント: