2008年8月16日土曜日

震度0(朝日新聞社出版)

著者名:横山秀夫 出版社:朝日新聞社出版 発行年:2008年
 文庫本で定価800円とちょっと高目の価格設定なのだが,なんといっても500ページ近い分量のN県県警本部警務課長の失踪事件を念入りに描写。架空の警察公舎の中で渦巻く人間模様に飲み込まれるとあとはそのまま物語の人間関係に飲み込まれっぱなしでラストにたどりつく。電話の会話からうかびあがるフォーマルな人間関係以外のインフォーマルな人間関係。どこの会社でもどこの官庁にでもありうる話だが,表向き一枚看板であるはずの県警本部の公私を舞台に失踪事件を扱う腕前がやはり見事。一種キャリアの描写はこれまでも「そんなのいないよ」というぐらいカリカチュアライズされた描写が多かったが,横山秀夫氏はおそらく実際に現場で指揮をとるキャリア一種出身の管理職を目にしていたのだろう。カリカチュアライズされた一種キャリア警察官僚ではなく,リアリティのある描写になっていると同時に,これまで「叩き上げ対キャリア」という図式の中にⅡ種キャリア出身の警察官僚も登場させてこの物語に登場させる。「自治体警察」の中でのⅡ種キャリアというものの存在をこれまですっかり失念していたが,確かに出自がいろいろある警察の中で会議を開いた場合には,この本に描かれているような微妙な会話と責任の取り方になっていくのだろう。ミステリーという「枠」よりも,人間模様を描いた小説として一気に読み終わってしまう。

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