著者:吉野佳生 出版社:講談社 発行年:2009年 本体価格:1700円
評価:☆☆☆☆☆
この本は2009年発刊当時すぐに購入したのだが、2009年というのは個人的にも非常に忙しい一年で、手にとることもないまま2011年になってしまった。で読み始めてみると面白い。満期保有目的の債券にデリバティブを組み合わせた金融商品だが、この満期保有目的というのがポイントで、この保有目的の有価証券は取得原価かもしくは償却原価で評価する。つまり投資が継続されるということで時価評価はされない。地方自治体や財団法人などがそうした「元本保証」で高い利回りが当初は保証されているということでかなり購入したようなのだが、たとえば為替レートや金利差などに連動するデリバティブだとすると、取得者側に損失がでそうになるときには確かに元本保証ではあるものの償還期間が一気に30年以上に引き延ばされるというもの。30年たてば元本保証とはいってもインフレが進行していた場合には、購買力としてはむしろ目減りしている。逆に売却した金融機関が損失をこうむりそうな場合には償還期間が極端に短く切り上げられるが、この償還期間についてのオプションはすべて金融機関が決定するという仕組み。なんらかの仕組みがほどこしてあるという意味で仕組み債券とか仕組み預金というわけだが、これがかなり売れたらしい。実際に損失が表面化するのはひょっとすると今から30年後になるかもしれないが、これに警鐘を鳴らしたのがこの本。もともと時価評価が難しいうえに財務諸表にも投資有価証券と表示されているとそれ以上はなかなか細密に調べるのは難しい。一時期、デリバティブ商品の時価評価が話題になったが、巧みに債券と組み合わせて普通の「満期保有目的債券」と表示できるように工夫してあるところがミソか。この仕組み債券については実は喫茶店で横にある銀行員とその顧客が座ったときに営業トークを聞いて「仕組み債ってのは私は売りたくないんです」というコメントがあった。ということは一部の銀行員でもそのリスクは承知しているし、「売れといわれても売りたくない」という正直なコメントに実は好感をもった。もっとも客のほうは何のことだかよくわかっていなかったようだが…。大部分の営業部員が血眼になって売り歩いたこの仕組み債、かつての変額生命保険並みに今後さらに問題になりそう。しかも円は現在80円台がデフォルトになっており、円安になれば高い利率で円高になれば30年後の元本保証という仕組み債券だとかなり泣きをみる地方自治体や財団法人が続出しそうな予感…。
評価:☆☆☆☆☆
この本は2009年発刊当時すぐに購入したのだが、2009年というのは個人的にも非常に忙しい一年で、手にとることもないまま2011年になってしまった。で読み始めてみると面白い。満期保有目的の債券にデリバティブを組み合わせた金融商品だが、この満期保有目的というのがポイントで、この保有目的の有価証券は取得原価かもしくは償却原価で評価する。つまり投資が継続されるということで時価評価はされない。地方自治体や財団法人などがそうした「元本保証」で高い利回りが当初は保証されているということでかなり購入したようなのだが、たとえば為替レートや金利差などに連動するデリバティブだとすると、取得者側に損失がでそうになるときには確かに元本保証ではあるものの償還期間が一気に30年以上に引き延ばされるというもの。30年たてば元本保証とはいってもインフレが進行していた場合には、購買力としてはむしろ目減りしている。逆に売却した金融機関が損失をこうむりそうな場合には償還期間が極端に短く切り上げられるが、この償還期間についてのオプションはすべて金融機関が決定するという仕組み。なんらかの仕組みがほどこしてあるという意味で仕組み債券とか仕組み預金というわけだが、これがかなり売れたらしい。実際に損失が表面化するのはひょっとすると今から30年後になるかもしれないが、これに警鐘を鳴らしたのがこの本。もともと時価評価が難しいうえに財務諸表にも投資有価証券と表示されているとそれ以上はなかなか細密に調べるのは難しい。一時期、デリバティブ商品の時価評価が話題になったが、巧みに債券と組み合わせて普通の「満期保有目的債券」と表示できるように工夫してあるところがミソか。この仕組み債券については実は喫茶店で横にある銀行員とその顧客が座ったときに営業トークを聞いて「仕組み債ってのは私は売りたくないんです」というコメントがあった。ということは一部の銀行員でもそのリスクは承知しているし、「売れといわれても売りたくない」という正直なコメントに実は好感をもった。もっとも客のほうは何のことだかよくわかっていなかったようだが…。大部分の営業部員が血眼になって売り歩いたこの仕組み債、かつての変額生命保険並みに今後さらに問題になりそう。しかも円は現在80円台がデフォルトになっており、円安になれば高い利率で円高になれば30年後の元本保証という仕組み債券だとかなり泣きをみる地方自治体や財団法人が続出しそうな予感…。