2011年2月13日日曜日

経済学的思考のセンス(中央公論新社)

著者:大竹文雄 出版社:中央公論新社 発行年:2005年 本体価格:780円 評価:☆☆☆☆☆
「競争と公平感」が現在各書店で平積み続出だが、本書はその前編にあたる。経済学とは「インセンティブと因果関係」の学問と位置づけ、「国民栄養調査」など一見経済学とは関係なさそうなアイテムまでも活用して「因果関係」と「インセンティブ」を明らかにしていく。時間割引率が高い人(つまり将来の価値を低く見積もり、現在を重視する人)にとっては、将来の肥満や運動不足などは現在価値に割引計算すると非常に低い便益しかもたらさない。しかし現在価値と割引率が適正である人ならば将来の価値を正しく現在価値に置き換えて、たとえば食欲なども将来への影響を勘案して適切に抑制することができる。アメリカの場合、レトルト食品など調理時間の圧縮が技術革新によって達成されると、おなかがすくとすぐに食事をすることができる。そうなると将来の肥満などを考慮せずにすぐに「食べてしまう」その結果肥満が続出するという「因果関係」になってしまうというわけだ。こういう肥満を抑制するためには「コミットメント」(自分自身への確約)が必要になる。一種の自己抑制装置ともいうべきだろうか。長時間労働が当たり前の社会では食欲を先延ばしにして「食べ過ぎない」というコミットメントは弱まる傾向にあると考えられる。そうすると日本人男性の肥満度が高くなってきたのは長時間労働による「コミットメント」の弱体化で説明は可能になるというわけだ。
日常生活にも少なくとも「経済学的思考」は持ち込めるし、しかもそれを活用することもできる。哲学がわりと「実存的に」日常生活に根をはるように、経済学も「お金」以外の分野で日常的に「考え方」が活用される場面があってもいい。「競争と公平感」も面白いがこの本も非常にユニーク。

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