2011年2月21日月曜日

警視庁情報官(講談社)

著者:濱嘉之 出版社:講談社 発行年:2010年 本体価格:648円
元警察官の著者による架空の「情報官」という設定の小説だが、架空なのにもかかわらず面白いのは、ところどころ「事実なんだろうな、これは」と思わせる部分が各所にちりばめられている点だ。国会想定問答集の作成や国会の経済産業審議会では「与党も野党も同じ電力会社の想定問答」の息がかかっていると「思われる」くだりはなるほどと思う。たとえば関東地方の独占企業であれば経営者側は経営者の連合会から国会議員をたて、組合は連合を通じて小説の時代の「野党」に国会議員をたてているわけだから、二大政党制で政権が交代しても与党と野党が入れ替わっても二大政党制は実質的に機能しないであろう…というようなことが推定できる。また原子力発電所をめぐる「土地」の買収については、もちろん土地収用法など合法的な土地の収用はありうるが、その一方で別の「地上げ」などの行為も昔だったら一定程度の確率であっただろう。スパイの養成となる「タマ」のあたりのつけ方や対象者への調査や観測の手法(通信などの傍受記録、立ち寄り先など)もほぼ事実であろう。あるいは事実でないとしてもそれに近い手法を用いていたに違いない。ストーリーそのものにはあまり興味をそそられなかったが、各所の「描写」のいくつかに突き動かされて最後まで読んでしまう。部分的なリアリティと部分的な「ありえないだろー」という突っ込みのコントラストが印象的なフィクション。

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