2011年2月21日月曜日

パリ、娼婦の館(角川学芸出版)

著者:鹿島茂 出版社:角川学芸出版 発行年:2010年 本体価格:2500円
社会学の名著としてはアラン・コルバンの「娼婦」があるが素人が手を出すのには難しい。とはいってもこういう社会の歴史を一気に通覧するのはいろいろな意味で興味深い。ということでこの1冊。エミール・ゾラがなぜゆえに「自然主義文学」などと分類されるようになったのかもわかる。第二帝政(ナポレオン3世の時代)から第三共和制の時代にかけてがメインに取り扱われているが、第三共和制のお偉方が利用したという「スフィンクス」というお店については写真なども掲載されている。またエドワード7世が使用したという謎の「椅子」、「鞭打ち」の歴史などもひもとかれる。人間が人間に対してあまりに厳しく接するとそれが逆に倒錯をまねくという不可思議。そして第三共和制の歴史を取り扱うさいにはせまりくるナチス・ドイツの足音というのも見逃せない。第三共和制のすぐあとにナチス・ドイツはフランスにせめこむわけだが、その前に第二帝政と第三共和制を通じて普仏戦争でフランスはドイツに敗北している。政治外交的には暗い時代にパリで営まれていたメゾン・クローズの歴史は19世紀の政治経済と19世紀と21世紀とでさほど違わない人間の営みをあぶりだす。「今」は「昔」とどこが違うのか…というと150年前と現在とでは人間の本性はさほど変わっていない、というのを実感させてくれる。

0 件のコメント: