2011年2月6日日曜日

パリが愛した娼婦(角川学芸出版)

著者:鹿島茂 出版社:角川学芸出版 発行年:2011年 本体価格:2800円 評価:☆☆☆☆
飯田橋の文教堂書店では学芸モノや歴史モノは向かって右側通路側の壁に一箇所にまとめられて陳列されている。まあ大体「ガリア戦記」など定番の書籍が多いのだが、こうして新刊の歴史モノもたまに並べられているから油断ができない。さりげなく「棚差し」になっていたこの1冊をさっそく購入。読み始めたら面白くて一気読みである。フランス資本主義が消費主導型に移行するのがだいたい19世紀。ちょうど百貨店という小売商のスタイルが定着したころだが、このころは奢侈品が増加し陳列されるようになった時代。ただし所得の格差がきわめて大きかった時代ということになる。資本主義の「進化」(?)とパリの公娼や私娼の「家計簿」やエミール・ゾラなどの描写をもとに鹿島茂が見事な世界観をまた打ち出してくれる。兵士用のメゾン・クローズの写真や歴史に名を残すエミリエンヌ・ダランソンの写真(33ページ)、リアーヌ・ド・プージィの写真(51ページ)などがまた興味深い。「ヒモはなぜ必要か」と命題についても鹿島茂氏の見事な考察が述べられている。それもまた資本主義構造の当然の帰結として「ヒモ」というのは必要悪になるわけだ。で、資本主義の進化とともに生物学的な要請ではなく「脳髄から生み出される仮想空間」へと「場所」が変化していく様子も見事に描写。歴史的事件がただ羅列されているのではなく、文芸作品から歴史的背景、そして写真もからませて現在の生活もまた「再修正」して見直すことができるという見事な作品。歴史ってこういうアプローチもまた必要。

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