2011年2月4日金曜日

神話の力(早川書房)

著者:ジョーゼフ・キャンベル、ビル・モイヤーズ 出版社:早川書房 発行年:2010年 本体価格:1,000円 評価:☆☆☆☆☆
単行本として出版されたのが1992年。それから18年後にこうして文庫化されたのがこの名著。「人生の意味」よりも「人生の経験」を重視し、ユングの影響を強く受けながら文化や人種の差異を乗り越える叡智を兼ね備えた人徳者。けっして自らの学説を押し付けようとするところがなく、淡々と神話の中からメッセージを汲み取るジョーゼフ・キャンベルの語り口がすばらしい。人間の精神的な可能性を追求しようとするそのエネルギーが満ち溢れたこの本は、無宗教である私の心にも訴える「何か」がある。自己の外見ではなく内面に深く浸透していこうとするとき適切なナビゲーターがなければそのまま人間は「個」の中に沈潜してしまう。だがそうした人間の弱さを克服するべく生まれたのが神話であるのかもしれない。身体よりも精神を、そして「生活」というともすれば学識者が無視するような人生の側面にも配慮してくれているジェームズ・キャンベルの「内面」がこの本を名著として成立させている。価格1,000円は安い。そして2010年にこの名著を文庫本として発刊した早川書房の英断にも拍手。

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