2010年8月1日日曜日

出会い系のシングルマザーたち(朝日新聞出版)

著者:鈴木大介 出版社:朝日新聞出版 発行年:2010年 本体価格:1100円
 おりしも、23歳の風俗店勤務のシングルマザーが、わが子二人を放置して死に至らせる事件が発生した。この母親の場合には、ご主人と離婚して、出会い系ではなく風俗店で勤務していたので、この本に登場してくる女性たちよりも所得的には余裕があったものと推定できる。住んでいたワンルームマンションもお店の借り上げなので、家賃も払えないという状況ではなかった。むしろホスト遊びに夢中になっていたというから、お金に困る状況ではなかったわけだ。
 似てはいるが決定的に違うのは、出会い系のシングルマザーにはまず「お店」で働けるほどの美貌や自信がない。さらには、精神的にもおいこまれており協調性にも欠けるという分析がなされている。これではまず風俗店で勤務することができない。さらには生活保護の申請にも通りにくい。書類仕事がそもそも苦手で、だからこそ手軽に携帯電話で出会い系で「稼ぐ」わけだが、本人たちには売春をしているという自覚はなく、「友達を作る」「さびしさをまぎらわす」といった側面が強いようだ。事務処理的なピラミッドでも最下層で、風俗店に勤務することもできず、かといって前のダンナは賭博やDVのダメ男で養育費ももらえない…という四面楚歌の状況。ただしわが子との家庭だけは大切にしていきたいという思いをもっている。だからこそ風俗店で勤務してホスト遊びをする女性であれば、「子供が邪魔になる」という発想もでてくるかもしれないが、このシングルマザーは逆に「子供がすべて」ということだ。児童福祉施設などに預けるなどはもってのほかで、なんとか親子(父親なし)の生活でがんばろうとしているというのが特徴的。所得階層としては信じがたいほど低いレベルでさらには実家との関係も疎遠。こういう出会い系のシングルマザーがかつて歴史上存在したのかどうかはわからないが、行政が手を差し伸べるにはあまりにも特殊な状況で、かといって警察が彼女たちを逮捕すれば、その微妙な家庭は壊れてしまう…。家庭にはいくつもの不和の原因や不幸の原因があるが、こうした微妙な問題に切り込んだ週刊朝日の取材は見事。全部が全部ペンキで塗りたくったような不幸せではなく、ここには母親がかかえるトラウマと、子供が今後抱えるであろうトラウマの「種」がいくつもいやになるほど紹介されている。

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