2010年8月30日月曜日

デジタル教育は日本を滅ぼす(ポプラ社)

著者:田原総一朗 出版社:ポプラ社 発行年:2010年 本体価格:1400円
 緊急提言!と銘打っての発売。ipodが発売され、2020年度までの端末機器導入などの政策予定なども公表された時期にはタイミングのいい出版だ。5つの章だてになっているが、肝心のデジタル教育とその影響については簡単にe-mailやツイッターなどの使用と最近の学生気質について関係が考察され、その関係性が維持されたままと仮定してデジタル教育が普及すれば、同じようなコミュニケーション能力の欠如などの欠点を内包したままデジタル教育は破綻するのではあるまいか、ここで教育の目標を確認してはどうか…という著者の提言である。
 実際に情報機器の利用がコミュニケーション能力の欠如を生み出している、あるいは助長させているという分析が正しいかどうかがまずわからない。(そもそも1995年以前にもコミュニケーション能力の不足や5月病などの現象は報告されていた)。便利なことが人間を豊かにすることではないという著者の問題提起は正しいが、「それでは教育の目標を明らかにしよう」というのではやや安易な問題提起ではなかろうかという印象ももつ。個人的には第3章で戦後の教育改革の流れをまとめて分析している箇所がこの本の長所であって、「これから」の問題提起をおこなうのにはやや実証データが不足しているのではないかと思う。文部科学省のこれまでの行政に「実証データによる裏づけが少なかった」「日教組による学力テストの実施の困難さ」などが指摘されているがゆえに、「だったらデジタル教育の問題」についても実証データを巻末にでもつければ良かったのではないか…という不満もある。
 京都のH高校の教育の成果などの事例が紹介されてはいるものの、あとは著名人のインタビューなどで構成されている要素が強く、「ちょっとこれでは内容に不満をもつ読者が多いのでは」という気持ちもあり。すでに「よのなか科」や「百マス計算」については個別の書籍で別途紹介されているという実情もあるほか、文部科学省のホームページには詳細な資料がアップロードされているので、もう少し踏み込んだ議論を続く書籍に期待する。
 おそらくデジタル教育の長所・短所を洗い出すのにはアメリカ、韓国、EU諸国、中国といったほかの国々の教育と比較分析をするのがひとつの有効な方法になるのではないか。国際性という観点からはPISAや「危機に立つ国家」などが紹介されている程度でちょっと著述が弱い。またインタビューをした該当の方々の関連書籍や参考書籍についても巻末に付録が欲しい

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