2010年8月20日金曜日

大聖堂 下巻(ソフトバンク クリエイティブ)


著者:ケン・フォレット 出版社:ソフトバンク クリエイティブ 発行年:2005年 本体価格:857円
 上巻・中巻では言及がなかった十字軍やイスラム商人の影がちらついてくる。そしてロマネスク様式からゴシック様式への変化も描写され、壁に「ガラス」を使用するというアイデアもうまれてくる。
 この「大聖堂」がミステリー小説ともよばれるのは、冒頭の謎の「処刑」の理由が最後になって明かされるから。実際、「なるほど、そういう可能性も確かにありうる」とも思えるラストが面白い。権力志向のウォールランのラストも泣かせる。
 読んでいると必ずしも目標や理想と現実が一緒に歩むわけではないが、また途中で力尽きて倒れる人もいることはいるが、あるべきところに人は落ち着く…ということが飲み込めてくる。理不尽なことがないでもないが、それでも「大聖堂」というシンボルのもとに民衆が結集していく様子は見もの。「ビジネスにも役立つ」といっている人がいたが、確かにそのとおり。具体的な目標を設定して、その目標にむけて人心を統一していくプロセスは、「営利」という目標のもとに労働力を結集させる株式会社とよく似ている。キリスト教(カソリック)と騎士道精神、そして東方のイスラム文化の勃興といった12世紀イングランドの迷信深い、しかし今と変わらない人間模様が緻密に描写されている。ああ、そういえばカソリックの組織体系と会社の組織体系は「社長=大司教」と置き換えれば、まったく行動原理は同じ。「大聖堂」を建立しようとする石工の姿は、乏しい資本力で大規模事業をなしとげようとする現代の起業家にも似ている。

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