2009年8月2日日曜日

チャイルド44上巻・下巻(新潮社)

著者;トム・ロブ・スミス 出版社:新潮社 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆☆
 すでにリドリー・スコット監督、メル・ギブソン主演(予定)でハリウッドが映画化権を取得している作品。革命から約20年後のウクライナ地方の飢餓エピソードとスターリン独裁政治の1953年のエピソードが冒頭につづられ、そしてモスクワの国家保安省(MGB)捜査官レオ・ステパノヴィッチ・デミドフの捜査に焦点が移っていく。ソビエト連邦では社会主義国家においては犯罪や貧困は発生しないという前提であったため、犯罪捜査が始まった瞬間にはすでに容疑者は真犯人とみなされていた。しかし、ソビエト連邦各地で連続して多発する子供の惨殺死体。そしてその死体には特有の「痕跡」が残されていた…。
 29歳の著者が書いたものとは思えないほどの壮絶さで1950年代のソビエト連邦と中堅一歩手前の夫婦のあり方が描写される。ミステリー小説といえばミステリー小説で最後に「衝撃の結末」が用意されてはいるのだが、「共同体とは?」「国家とは?」「結婚とは?」といった問いかけが伏線に用意されている秀作。文庫本には地図も付されており、地名はすぐ参照できるように読者に配慮された編集となっている。この本の下敷になった「子供たちは森に消えた」(文藝春秋)や映画「ロシア52人虐殺犯チカチーロ」(スティーブン・レイ主演)もすでに読んだり見たりはしていたが、時代も「手法」もチカチーロとはまったく別物の構築になっており、実話とはまったく違う世界を読者はのぞくことになるだろう。ウクライナ大飢饉について若干予備知識があると深刻さが多少増すかもといった程度で、世代や年齢などを問わずにいろいろな角度で楽しめる作品だ。

0 件のコメント: