2009年8月29日土曜日

恐怖の存在上巻・下巻(早川書房)

著者:マイケル・クライトン 出版社:早川書房 発行年:2007年
 平均海抜1メートルのバヌアツ共和国が二酸化炭素の増加による温暖化で水没の危機にあるとして、訴訟準備を進める団体。そしてその団体に資金援助そのほかを続ける環境保護団体NERF。しかし、若手のやり手弁護士ピーター・エヴァンズは、NERFとその資金援助をしているジョージ・モートンの相談に応じているうち、産業革命以前のデータとその後のデータ、また訴訟準備のデータを分析しているうちに、通説と異なる別の見解に気がつくようになる…。実際のデータや研究成果については注記が付されているほか、地球温暖化と二酸化炭素の問題、環境テロといったやや現代ではタブーにも属する諸問題に切り込むサスペンス小説。下巻には京都議定書をロシアやアメリカが批准した場合の想定データなども紹介されている。著者の意図や考え方については物語の最後に簡略にまとめられているが、どの「立場」に立って読んでみても面白いサスペンス小説であることには変わりがない。「恐怖」については物語りの後半でその位置づけが明らかにされ、現代人にとっての「恐怖」が平和の維持装置になっているのでは…という皮肉なエピソードもまじえられている。これ、日常生活で「なんかの役にたつのか」っていうと実は新聞やウェブのいわゆる「社説的な言論」や「データの改変や読み方」の裏側をみるときに役にたつ。はたして100年前はどうだったのか、「将来」っていうのは具体的には何年ぐらい先なのか…。サスペンスであると同時に一種コミカルな部分や表現も交えられていたりする。ラストには「科学」に対するマイケル・クライトンの考え方が現れており、非常に興味深い。

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