2009年8月22日土曜日

選ばれる男たち(講談社)

著者:信田さよ子 出版社:講談社 発行年:2009年 評価:☆☆☆☆☆
 タイトルだけみるとまるで選ばれる男性のための「本」という感じだが、実際には、さまざまな人生経験をつみ、結婚生活の裏側も知った中高年の女性を中心に著述されている。すでに新婚時代の「夢」や「理想」よりも現実の厳しさや裏側も知っているいわゆる「おばさん」たちにとって結婚とはどういうものだったのか。そして結婚生活というのが社会的制度であって、その制度にからめとられるとどんな草食系の男性でも一種の「権力」を帯びていく…という指摘がなされている。こうした権力関係に組み込まれた中で、「実際とは違う別の理想の男性像」こそが、ヨン様やハニカミ王子といった中性的で、しかも優しそうな理想の男性ということになる。夢の男に向かうエネルギーがある以上、それを生み出す土壌があるはず…ということで著者のフォーカスは「DV」に向かっていく。他の原因も多数あるだろうが、熟年離婚の一つの要因に実際の暴力以外に無視・罵詈罵言といった言葉のDVもありうるだろう。そして社会制度として、「結婚」にはそうした男性の特権的地位を容認する土壌がある。これ、若い人にはちょっとわかりにくいかもしれないが、日本社会は表面的には変わっていそうで実は深層の部分が意外なほど変わっていないところが多い。いまだに就職活動のさいに本籍地そのほかをいろいろ調べる会社もあるし、素行調査をする会社もあるが、これってこの時代でありながら江戸時代の非合理的な文化をそのまま継承してしまっている部分がいまだに残存しているということでもある。結婚においても、家父長制といういまでは死語のように思える言葉が形をかえて残っている。「男性不信」あるいはその逆の「奔放な男性関係」のいずれもが、父親という「男性」の生き方をそれぞれ逆の形で娘がとらえなおした結果ともいえなくはない。
 重たい内容の新書だが、女性が読むよりも、自分自身が「多少はものわかりがいいほうなのではないか」などと思っている男性が読んだほうがむしろ自分自身の生き方を楽にしてくれるだろう。無意識の権力行使ほど意識的な権力行使以上に「疲れる」ものはないからだ。一つ権力構造の見えない「圧迫」から自分を解放することで、一つだけまた違う生活の側面や新しい行動原理も見つけることができる。

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