2009年6月7日日曜日

鳩笛草(光文社)

著者:宮部みゆき 出版社:光文社 発行年:1995年
 3つの超能力ミステリーが収められた文庫。親族をすべてなくした21歳のOLは遺品の中からきちんと整理されたビデオの山をみつける。そしてタイトルを見ているうちに「あること」に気がついた…
 女子高生の妹が惨殺され心に傷を負った多田一樹の前に現れた青木淳子という女性。彼女と喫茶店で会話している最中にベンツが突如燃え出した…
 人の心を読む能力をもつ女刑事。しかし最近はその能力の衰えを感じるとともに自分の刑事としての資質も疑いつつあった…。

 「等身大」の主人公というか超能力を題材にしつつも、描かれている主人公は街のどこかに本当にいるかもしれないと思わせる設定。新聞ではデジタルに報道される事件もその背後には被害者とその家族や親族がいる。その心理を想像したとき、機械的に描写せざるをえない犯罪への憎しみ、平和な生活への憧れ、失ったものへの憧憬が去来する。だれもが被害者になりうるこの時代で、「もし…」が成立するのであれば、こんな推理小説の3人の主人公がいたらと切に思う。「謎」を解くというよりも非合理な人間の感情があるべきポジションにおさまっていくその有り様が描写されている小説。人間には何かを作り出そうとする力もあれば「破壊しよう」という衝動もある。その中で社会規範がきかない出来事にいかに対応していくのか。ストーリーテラーの筆がさえまくる。

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