2009年6月9日火曜日

クロスファイア(上)(下)(光文社)

著者:宮部みゆき 出版社:光文社 発行年:1998年
 「鳩笛草」に収録されている中篇の続編となる長編推理小説。ベストセラーかつロングセラーであり映画化もドラマ化もされた。「超能力」をもつ女性が特定の団体から排除されていくというストーリーでは筒井康隆氏の「七瀬ふたたび」という名作があるが、趣きをかえてこの小説では、「いつでも発射可能な装填された銃弾」である主人公の過去と現在が交錯しながら、ラストにむかって突き進んでいく。
 この主人公は幼いころにある「事件」である「考え」にコミットしてしまい、その後の人生を生きていくためにはなんらかの論理が必要だったと考えられる。それは法規範や社会規範を超えてしまうものだったが、ある意味では単純化されたその論理こそがその主人公の生きる術であり、そのほかの思想や思考の入り混じる余地すらもなくしてしまった。というよりも自分の哲学とは相容れない考え方をすべて「焼却」してしまったのだろう。だからこの物語で主人公がなんらかの書籍について語る、あるいは映画について語るという場面はない。常に存在するのは自分の哲学とその哲学にみあう状況だけだ。こうした一貫性こそが彼女の「生きる力」を支えていたわけだが、ラストにその一貫性が崩壊してしまう。それは1960年代や1970年代の若者の人生が突如「折れて」しまい、その後高度経済成長を支える別の人生に転化してしまったかのように「生きること」「人生」といったものから乖離していく。長編推理小説だが、いわばこれは「一貫した論理」で生きようとして失敗した挫折の物語でもあるだろう。

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