2009年6月19日金曜日

ヤリチン専門学校(講談社)

著者:尾谷幸憲 出版社:講談社 発行年:2009年 評価:☆☆☆☆☆
 37歳、バツ1で「仮性包茎」で彼女いない歴2年という著者のあけっぴろげの自己紹介から始まる。兆しは30代半ばから始まった…に始まるルソーも顔負けの「告白」で、「老い」ってなんだろ?という疑問にもかられるが、著者はむしろ「昔の勢いを取り戻したい」というモチベーションでこの本を書く。80年代に風靡したナンパ術や若者の世界観が現在大幅に変化しており、かつての「モテ」は今の「モテ」にはつながらないことを明らかにしていくのだが、実は最後まで読んでいくと単に「もてる」「もてない」ということではなくて、日本社会そのもののここ20年の大きな変化が浮かび上がってくるという構図になっているのが興味深い。各種メディアで取り上げられるのはもちろんのこと、書評でもいろいろな形で論じられるのは当然といえるだろう。ただタイトルが「ヤリチン」なので正直、私自身、レジで購入するのには相当に勇気がいった。「社会学入門」とかジンメルの洋書とかもカモフラージュで一緒にもっていこうかな、とも思ったのだが、それこど80年代価値観なのでこの1冊を握り締めて女性店員さんのいるレジに並び定価800円のこの本を購入。「脱IT化」や「狭い部屋に住め」などこれまで常識とされていた事柄が実は非常識になっていることもわかるほか、現実を生き延びようとするときにブランドってあんまり信用ならないというのもおそらく今の20代や10代では常識なのだろう。バブル崩壊以降、ブランドのある老舗の大企業がどんどこ倒産したのだから、ブランドに頼る未意味さは80年代世代よりも90円代世代以降のほうがしっかり感覚的にも理解しているはずだ。モテタイ人もそうでない人も「今」の「雰囲気」を感じ取るには抜群の切れ味を誇るこの新書はお勧め。

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