2008年2月26日火曜日

ダウンロード究極マスター(普遊舎)

出版社;普遊舎 発行年;2008年
 あまり知らない出版社だったが、本屋さんに行くとこの500円シリーズがずらっと並んでいる。4色で128ページだから印刷・製本の原価もそれなりに高いはずだが、よくまあ500円という低価格でパソコン関係の「新書サイズ」的な市場を切り開いたものだと思う。ダウンローダについては昔少しだけirvineを使用したことがあったが、今ではorbitが定番らしい。ただし第2章からはいわゆる「ファイル共有ソフト」の説明になってしまう。ただその説明だけでもウイルス感染や情報流出のリスクの高さがわかる。いわば自分のパソコンと他の人のパソコンを「共有」してしまうのと同じだから、だれかがウイルスに感染してその人とファイルを共有した場合にはすぐにウイルスに二次感染してしまう。27ページにチェックツールなども紹介されているが、それだけwinnyなどからウイルス感染している人が多いとも推測できる。正直、セキュリティ関連のソフトウェアなどは非常に参考になるが、「有料サイトが安全」(?)とかややクビをかしげる部分もないではない。ただ500円の本だしね…。むしろ版元の努力に対して高い評価。「自作パソコン」や「wii」などちょっとしたパソコンをテーマにしたシリーズ。コストパフォーマンスは相当に高いと思う。

2008年2月25日月曜日

効率が10倍アップする新・知的生産法~自分をグーグル化する方法~(ダイヤモンド社)

著者名;勝間和代 出版社;ダイヤモンド社 発行年;2007年
 いわゆるノウハウ本やビジネス本はあっても現在トップクラスの売上を更新しているベストセラー。私は第1刷の段階で購入したけれど、もうおそらく10刷ぐらいはいっているのかもしれない。情報発信のノウハウということで著者自身が購入して活用している健康関係のグッズやデジタル商品などの一覧、そしてお勧め書籍の一覧など、一冊でいろいろな商品や書籍についても使い勝手そのほかの情報を得ることができる。ただのノウハウ本と違うのはそのデジタル商品の「使い方」も含めたカタログ的な部分もあるのだろうと思う。お勧めサイトや読書法なども箇条書きにしてあり、いわば知的活用方法についての著者独自の「フレームワーク」が一冊にまとめられている。となると定価1,500円は相当に安いもので、店頭で立ち読みするよりも一気に購入してしまったほうがいろいろな意味で活用可能。立ち読みですんじゃう本とは比べ物にならないほど売れたのは、立ち読みでは済ませられない情報量が満載されている点にもあるのだろう。数値化して考える癖など仕事だけでなくほかの分野にも応用可能な情報満載。当面しばらくはこのブームは続くと考えたほうがよさそうだ。

マリ=アントワネット2(みすず書房)


著者名;A.カストロ 村上光彦訳 出版社;みすず書房 出版年;1972年
 首飾り事件の後から、1789年の三部会招集、ヴァレンヌ逃亡、マリ=アントワネットの処刑までを描く。ただし文書文献に基づいた構成というだけあって、マリ=アントワネットの死刑宣告にいたるまでのくだりは証拠物件その他の不足なども指摘されるほか、マリ=アントワネットの主張も文献で確認されるかぎり収録されており、やはり死刑というのはこの時代の雰囲気に相当左右された結果ともいえそうだ。ただしこの検事、裁判長、裁判の判事6名のうち3名を除いて後にギロチン。証人のうち14名がギロチン、12名の陪審員のうち動乱後ひっそりと暮らせたものは「3名しかいない」。という歴史の大動乱期を感じさせる結果だ。共和政治を訴える人々の群れは、やはり相当無法状態の混乱の中で「けっこうめちゃめちゃなこと」をやっていたことが文書からもうかがえる。マリ=アントワネットの遺体についても詳細な検討が加えられているのだが相当無残な扱いで、フランス革命とはいっても「実態」がどうだったのか…を考えると素直には喜べない一面も。裁判については特に筆者の「第三者ぶり」の筆が冴え渡る。1972年発行。533ページのノンブルで第2巻終了。源泉資料として巻末に各種事件についての簡略なコメントと文献の所在地が掲載されている。

マリ=アントワネット1(みすず書房)

著者名;A.カストロ 村上光彦訳 出版社;みすず書房 発行年;1972年
 2部作の前半部分。ルイ16世と結婚し、4年後にルイ15世崩御のあとに王妃となってからの享楽的な生活を地味に文書から掘り起こして描写していく。18世紀の時代の雰囲気をどちらかといえばリアルタイムに描写していこうという筆者の意気込みは、膨大な文献作業から掘り起こした文書に裏打ちされている。いろいろ取りざたされているスウェーデン陸軍のフェルゼンとの関係についても「自制する恋人たち」という結論を導き出している。第1巻は有名な「首飾り事件」で幕を閉じる。是か否か、という価値観は今となっては第1巻をみるかぎり、マリ・アントワネットには当時の貴族として守るべきものを守っていなかった…というのはあるだろう。マリア・テレジアの書簡の引用に宮廷での謁見がどうして必要なのかが述べられているが、オーストリア帝国を率いたリーダーにふさわしい細心の注意が述べられている。そしてルイ15世からの治世の「歪み」もまたこの本から浮かび上がってくる。カペー王朝の崩壊については、マリ・アントワネットの放蕩などは「最後の一押し」に過ぎないのかもしれない。1972年発行の本だが、今でも販売されているのかどうか。こういう名著がまた書店にたくさん並ぶ時代になっていてほしいものだが…。古書店で入手。定価2060円。278ページ。

2008年2月24日日曜日

頭がいい人、悪い人の話し方(PHP新書)

著者名;樋口裕一 出版社;PHP新書 発行年;2004年
 この「頭がいい人、悪い人」シリーズはむちゃくちゃ売れているみたいだが、私も含めてだが、「自分の頭は悪くない」ということを前提にして読まれているのではないかと思う。ひねくって「自分は頭が悪いからこの本を読んでよくしよう」という発想…ができる人であれば、まあ、そういう意味ではすでに「頭がいい」わけだし。タイトルがやはり秀逸だったんだろうなあ。ま、「欽ドコ」にも「いい人・悪い人・普通の人」というのはあったことはあったが…。まあ大方は世間の相場どおりのタイプが羅列されているわけだが、それでもよんでいると、「あ、これ、自分だ…」と思うところも。「ケチばかりつける」、ン、そういうところあるなあ。「矛盾に気がつかない」、あるある。「低レベルの解釈をする」…あ…映画なんかそうだろうなあ。アンジェイ・ワイダ監督とかオリバー・ストーン監督とか「社会派」ってよばれる人たちの映画みてもぜんぜんわからないし…。あ、でもねえ…。結局、莫迦なのかどうなのかは最終的にはトータルにみて自分ではなく他人が決めるもの、っていうのも世間的常識かもしれない。「おれ、莫迦なんだぜ」といっている人がいても実際に深層心理ではとんでもないナルシストだったりするリスクもあり、自己評価は最終評価とはけっしてならず。「莫迦か莫迦でないか」は自分がいないところで、3人以上の人間が集まって、アルコールでも入って、いい感じの雰囲気で話せる雰囲気の場所と空間で決定されるように思う。だからまあ、話し方というのも一つの分類方法ではあるけれど、最終的には身内以外の第三者に決めてもらうしかないだろうなあ…。

 

年収崩壊(角川出版)

著者名;森永卓郎 出版社;角川出版 出版年;2007年
 今年に入ってさらに増刷。小泉内閣時代から「格差社会」の可能性を予測し、年収300万円時代が到来すると書籍で「予言」実際にはそれ以上の「格差社会になった」という話からこの本が始まる。統計データが実際に今の実態を反映するのはもしかすると数年後ということになるかもしれないが、好景気といわれても実感のないここ数年。ネット難民などといわれる方々も出現してきたが、必ずしもそれはライフスタイルの問題で、経済の問題ではないのではないか…とも実は思っていた(少なくとも定住や安定を拒みたい人も少なからずいるはずだ…)。ただこの本ではさらにつっこんで「自分の居場所がなくなるリスク」と「長生きのリスク」を指摘。今の平均寿命がさらに延びて、人口減少率がさらに増すというのはかなりの可能性で起こりうることだ。さらに2005年の国勢調査をもとに「非婚率」の高さも著者は指摘。男性の多くは「結婚しないではなく結婚できないのだ」と評論。さらには、「結婚で長期的な安定は得られないと悟った女性は、短期的であってもイケメンや金持ちに享楽的な利益を求めるようになった」(34ページ)がしかし「世の男性のほとんどはイケメンでもお金持ちでもありません」(同ページ)と厳しい評論。そのあと年金問題、特にマクロ経済スライド調整の話に移行するわけだが、冒頭の「長生きリスク」がこの年金問題とリンクして、資産運用の話へ…。年収が本当に崩壊するのかどうか。あるいは日本的経営が本当に終わっているのかどうか(定年雇用制も含めて)。まだまだ時間をかけなければ不明な点はある。ただし非婚率の数値は、突然に上昇するものでもなく下落するものでもおそらくない。ばたばたと突然、非婚率が下落するとしたら、それは何かの突然的な現象で、常識的に考えれば10年後、50代、60代の独身家庭が多数社会に生まれてくるということは考えられる。そのときの年金を含めた年収は…というと、やはり社会保障以外の何かを用意しておかないと不安な時代になるのだろう。あまり明るい話は含まれていないが、それでも森永氏の予測がさらにあたる可能性もある以上、やはり新書サイズでさっくり読んで10年後の自分を考えてみるのも悪くはない。

世界悪女大全

著者名;桐生操 出版社;文藝春秋社 発行年;2006年
 コリン・ウィルソン風の「大全」を思い浮かべていたのだが、実際にはエリザベス1世やエカテリーナ・メディチ、マリア・テレジアなどまで「悪女大全」に含まれており、もう少し有名度は落としても、別の名前を特集して欲しかったもの。ルイ15世とバリュ婦人(ジャンヌ・ベキュ)、さらにマリ・アントワネットの相克を思い出してみると「公的な愛人」というのは確かに一人。この本の190ページにはルイ14世とモンテスパン公爵夫人のエピソードが紹介されているが、フランスの宮廷生活では「公式の愛人を一人持つことが許されていた」のだそうな。中国や日本の大奥などと比較するとえらい違いだが…。ただしその次のコラムではルイ15世のためにポンパドゥール夫人が「鹿の苑」という一種のハーレムを作ったエピソードが紹介されており、「非公式的」にはやはりいろいろあった…ということか。他のページでもリシュリュー派が担ぎ出したジャンヌ・ベキュなどのエピソードが紹介されており、ちょっとこのルイ14世、ルイ15世ともに「大国」の宰相にふさわしいエピソード満載。ちょっと面白いのが英国での「高級娼婦」とされているクリスティン・キーラー。「スキャンダル」という映画のモデルになった人、そしてヒトラーとの「近親相姦的関係」として紹介されているゲリ・ラウバル。写真などもさすがに天下の文藝春秋だけあって文庫本なのに豊富。あとは索引などがもう少し充実してたらと思う。357ページ。本体価格619円。

スピリチュアルにハマる人、ハマらない人

著者名;香山リカ 出版社;幻冬舎 出版年度;2006年
 「スピリチュアル」ももうブームが過ぎたといわれてからこの本を読む。きっかけはやはりあの有名スピリチュアル・カウンセラーE氏の「生きている人を霊視してしまった事件」から。80年代や90年代前半の心霊や祟りはかなり怪しい雰囲気が逆に「売り」だったがさすが21世紀。守護霊や前世などは日常用語としてかなりフランクな雰囲気で語られる舞台装置になっている。人間だれしも不可思議な体験をしたことはあるし、自分でもそういうことはないでもないが、しかしそれはあくまで個人の問題であって、それを他人に何か語ろうとか教えようとか、逆に他人から諭されよう…などとは大半の人間は思わないはずなのだが、ついこの間までそれがブームだったとは…。この本によれば「お金儲け」と「スピリチュアル」現象はリンクしており、「お金儲け」を肯定することでよりブームが加熱した面があるとか。確かに「お金儲けをすると業が深まる」とかかかれたりすると職業を持っている人には受け入れられないわけで。「だましてほしいわけではないがとにかく気分を明るくして」という時代の要請を香山リカ氏は指摘する。確かに明るい雰囲気になればポジティブな発想もわいてくるが、実際のところ、暗くて逃げ出したくてたまらない場面をいくつもいくつも見なくては成長することもできないわけで…。ま、私は「ハマらない人」に属するのだろう…。

SEのホンネ話

著者名;きたみりゅうじ 出版社;幻冬舎 ;出版年度;2007年
 会社で一番寝やすい場所はどこか?それは座席を寄せ集めて作ったベッドである。というように非常に過酷な労働環境の中から生み出されてきたサバイバルノウハウが公開されている「裏のビジネス書籍」。可愛いイラストも筆者によるものだが、イラストのカワイさとは反比例して内容はどんどん過酷になっていく。特に「働くほど貧乏になる」法則の話は涙なしには読めない。またプロジェクトマネージャーという立場の重さと「人月」という独特の加工進捗度の矛盾には結構シビアな問題がある。コーディングやプログラミングはやはり相当細かい作業であるわけで「他人のコードを信じるな、自分のコードはもっと信じるな」というような品質管理の厳しさにはソフトもハードも関係ない。46版の若き、そして厳しきソフトウェア開発の現場のノンフィクションストーリー。

キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか

著者名;北尾トロ 出版社;幻冬舎 出版年度;2007年
 「キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか」…普通は言えない。が、この人は言ってしまう。しかもそれ以外の「普通は言えんだろ」ということまでバンバン言ってしまう。読みながら実は途中、「引いて」しまい、「頼むから言わないで欲しい」「言わないでくれ」と拝むような気持ちになってしまうほど言いにくいことを言ってしまう。まあ、たとえば「電車で知らないオヤジに話しかけ飲みに誘う」とか「GWのお台場で孤独な男たちと人生を語り合う」とか「電車でマナーを守らぬ乗客を叱り飛ばす」とか「激マズ蕎麦屋で味の悪さを指摘する」とか目次を読み返しているだけでも冷や汗が流れてくるのだが、これを筆者一流のドキュメンタリータッチで描写してしまうのでまるで自分が本当に「味の悪さ」を飲食店で指摘したり、「電車の中」で注意するような緊張感が漂う。正直、真夜中近くの金曜日の繁華街などで「こんな時間になぜ男一人」と思うようなことはあるが、実際にその素性や理由を聞いてみようという気持ちにはならない。というよりもなれない。しかしそこをあえて北尾トロ氏は踏み込んでしまう。尊敬する「えのきどいちろう」さんが「人生のどうにも引き返せない地点」と題した解説を書かれてらっしゃるが、「そういえばもうオレもストリート・オブ・ノー・リターンなんだな…」とかふとうなづいてしまう「強引さ」もこの本にはある。えのきどさんは「瑞々しい完成」と表現されておられるが、感性というよりも勇気なんだろうなあ。だって自分が10代のときだって、電車の中で見ず知らずの他人に話しかけようとは思わなかったし。実際、えのきどさんも「中年男が長年、出さずにいた勇気を出す」と表現されているし。


 ただ正直、辛い「ルポ」の「集合体」みたいな本にあって、ほろっと「泣き」が入るようないいエピソードも混じっており(というか混じってなければ商業書籍としてはいかがなものか、という声もでてくるのではないかと思われるが)、文庫でいえば150ページあたりのエピソードや著者自身の解説と「センチメンタルジャーニー」と題した一連の中でも219ページ以降はかなり泣ける。一番寒いのが189ページあたりで、これは「人前で自作の詩を朗読する」という企画で、ご丁寧に著者が朗読したという自作の詩が1ページ全部をとって掲載されている。総ページ308ページという大企画の文庫本で、このページでのエピソードの配列はさすがに一流出版社の編集技術を感じさせる。奥付では平成18年6月10日発売で同年12月15日で4刷という売れ行きで、「いいたくないけどいわなきゃなんね」「引き返せないけど引き返していいたい」という人間の「暗黙の欲求」を現実化したノンフィクションルポの「一角」といえようか。「スキマ産業」としては、今後さらに拡大の余地がかなりありそうな分野での注目作品…。

2008年2月23日土曜日

世界のとんでも法律集

著者名;盛田則夫 出版社;中央公論新社 出版年度;2007年
 正確には「法律」に限定されず条令や法典なども含む「一見奇想天外な法令」と著者のコメントが見開きで掲載されている。テレビの報道で一回見たことがあるトルクメニスタンのとんでもない気まぐれな法律がトップを飾り、インドの戸籍法やマヌ法典、イスラム法典まで内容は広がっていく。サウジアラビアではポケットモンスターのカードを持ち込んではいけないとか、犬とネコを一緒に飼ってはいけないというユタ州の州法とか非常に面白い。ただおそらく地域特有のなにかしらの必要性があって公布・施行されたものであろうことは察しがつくし、著者も解説を丁寧に加えている。インドの樹木婚という「ならわし」や2007年夏の時点で世界最速のネット回線を保有しているのは、スウェーデン在住の75歳の方で、1秒に40Gビットのやりとりができる超高速光ファイバーの保有者だとか、いろいろ法律に関係ない雑学まで紹介してくれているので、「法律」になじみが薄いとか「なじめない」という方々にもお勧め。もっとも、「法律」の難しさは文化や慣習にも関係があると同時に「社会システム」の問題もでてくるので、「面白い」とばかりもいえない側面があるのも事実。「法治国家だから…」「近代国家だから…」という「理屈」のほかにも難しい側面が多数あり、それは著者のコメントの端々からもかなり考えたのではなかろうか…という苦渋の表現があるようにも見受けられる。

2008年2月17日日曜日

ビジネス法則の落とし穴

著者名;東谷暁 出版社;学習研究社 出版年度;2007年
 ロングテール現象やウェブ2.0などの「ビジネス法則」が新しいものでもなく、過去のビジネス法則の焼き直しもしくは環境によっては成立しないことを実証・検討した新書。「先に市場を占有したものがその後も市場を占有しつづける」(マタイの法則)などの「半ば常識」となっている原則を検証。個人的にはランチェスター法則がスーパーマーケットの出店の背後にあったというくだりが面白かった。消費者の嗜好の固定の例としてキューピーマヨネーズがあげられているのも興味深い。結局、法則とはいっても最終的にはビジネス環境による、あるいは時代性による、ということが結論になるのだが、独占的ポジションにあるメーカーなどが凋落していく原理を推察していくのには非常に面白い新書サイズの経済書籍である。ニッチを占める企業がいかにして「勝利」していくのか、といった個人的な興味にも非常にヒントになった一冊だ。

2008年2月4日月曜日

ビジネスの文章・メモ・整理

出版社;インフォレスト株式会社 出版年;2007年
 シンクタンクの研究者や経営コンサルタントの方などの情報整理術の紹介。価格は980円。どちらかといえば元レーサーの丸山浩さんの「道具」に対するこだわりや使った道具は元に戻すという基本の中の基本が事故を未然に防ぐ方法として意識に残る。ネジ一本でも床に残っていた場合にはそれはどこかにあるべきだったネジが回っていないことを意味するわけだし。「掃除は現場で絶対に必要な仕事」という一言が重い。掃除の重要性はサイクルショップ経営の永井隆正さんも同じことをおっしゃっている。ビジネスツールやモバイルギアなどのカタログめいたものも掲載されていたが、デジタル機器よりもやはりアナログ機器で事故防止につながる心がけが究極の「整理」であることをこの本を読んで思う。最後に編集スタッフの方々がローマ字書きではあるが顔写真入りでコメントを掲載している。「いい加減な本は作らない。もしいい加減な本だったらそれは私たちの責任です」という意思表示に思えて非常に好ましい。

2008年2月3日日曜日

エッセンス簿記会計第4版

出版社;森山書店 著者名;新田忠誓 発行年;2007年4月10日
 総勢13人の著者による個性的な簿記会計の入門書。社団法人全国経理協会推薦図書である。営業資産(事業資産か?)の説明に比重が置かれており、無形固定資産や純資産の部についてはあまり説明がないというのも個性的だ。第6章では三分法の説明が中心だが、その後に分記法と総記法の説明があるのが面白い。通常入門段階で分記法か三分法か、といった議論はあるが、そうした「低次元」(?)の水準をこえて総記法にまで踏み込むあたりが高いレベルをめざした入門書であることがわかる。
 第2章の用語集は便利(13ページ~25ページ)。そしてそと38ページでいきなり(繰延資産として計上した)「創立費」の償却が出てくる。この段階で読む読者層は日商3級はクリアしている層に「限定」されてくるような印象を受ける。帳簿についてはかなり実務的な細かい説明がありこれは非常に好ましい。コンピュータ会計が進んだとはいえ、帳簿の見出し行は上は複線、下は単線、金額欄は縦の複線で区切り、逆にいうと縦の複線で区切られた数字は「金額」という意味と読み手には判断できる。金額の合計あるいは差額についても単線で上を区切り、その計算が終了したときには二重線を引く(55ページ)という説明はこの時代だから重要で入門書には必須の知識だと思う。
 帳簿組織の部分はA5判型なのだが拡大コピーするなど読者の側でもいろいろ創意工夫する必要があるだろう。
 株主資本等変動計算書はあっさり3ページで、しかも繰越利益剰余金を配当原資とした配当金や配当平均積立金を処分する練習問題も興味深い(281ページ)。売買目的有価証券評価益勘定など勘定科目レベルですでに独特なのだが、これも一種の「なれ」かもしれない。教育目的などいろいろなお考えのもとだとは思うが、会社計算規則その他の勘定科目(表示)との整合性はこれからの課題になるだろう。特に勘定科目には帳簿組織を構成する上でどうしても長さはなるべく簡潔にしたほうが良いという面もある。11文字の勘定科目では帳簿記入やリーダビリティの問題を考慮するとさらに改善されるべき論点が多く提出されていると思われる。
 p.103で割賦未収金という勘定科目が使用されていておもわずニヤリ。商品の売買以外の代金の後払い(代金請求権)にのみ未収金勘定を用いるという原則に反する反論が何某早稲田大学教授の書籍で読んでばかりのことで…。とはいえ基本に忠実な著述も多く「同一取引同一仕訳の原則」(同じ現象について同じ勘定科目を用いるべきという原則)についても言及されており、割賦未収金勘定も正常営業循環基準に含まれている存在だから、貸借対照表に開示されるときには未収金で処理して売掛金に含めて開示されるということかもしれない、
 第9章では納税申告書の書き方が設定され、本支店会計は第17章の利益の処分と損失の処理の後に「補章」として設定されているのもユニーク。204ページでは有価証券の差し入れ、収益の見越し・繰り延べの説明のあとに有価証券の売買活動が説明されているのも個性的だが「個性」というよりももう少し配列に気を使わないと入門者では全部とトータルの流れで理解するのは難しい本かもしれない。なにせ「有価証券運用損益」勘定は「投資の成果をまとめて示すために」統制勘定として用いるという説明は概念フレームワークをふまえたきわめて簡潔にして優れた説明だとは思うが「投資の成果」というキーワードが概念フレームワークに由来する言葉であることをどれだけの読者が理解できているかどうか。
 228ページの合計試算表の役割の意義についてはかなり分かりやすく説明。貸借一致を確認するだけでなく仕訳帳の借方・貸方合計金額と試算表の借方合計・貸方合計金額との一致を確認するという作業は仕訳がまるまる1つか2つ抜けているか抜けていないかを確認するのに有意義だし、ここをしっかりおさえておくと特殊仕訳帳制度で二重転記の問題点や二重仕訳金額控除の重要性が伝わるというものだ。合計試算表の機能自体は特殊仕訳帳制度にも通じる面があるということでこの2つのリンクを指摘するテキストがもっと出版されてもいいだろう。また残高試算表についても通り一遍の説明だけでなく精算表作成のための準備になるという積極的役割も明示されているのが好ましい。合計試算表にも残高試算表にもそれぞれ役割があるのでそれぞれの積極的意義をもう少し強調しても良かったかもしれない。
 決算整理の最終的な目的を損益勘定と残高勘定の作成という定義づけ(229ページ)もコンパクトでしかも積極的意義で非常に好ましい。こうしたシンプルでなおかつ積極的な意義はもっとこれからの改訂版で推し進めて欲しい文章である。
 第16章の「帳簿組織と伝票」はかなりコンパクトに伝票と帳簿組織についてまとめてあり、この本の中では限られたページ数を最大限に活用した優れた内容である。仕訳日計表にして「一定期間の伝票を勘定科目別」に「集計して合計転記」とメリハリのある説明。さらに仕訳日計表から総勘定元帳への転記で仕丁欄には勘定口座の番号を記入し、総勘定元帳の元帳欄には仕訳日計表のページ数を記入し摘要欄には「日計表」の名称を記入するなど伝票制度の解答に当たっては必要な知識が網羅されている。また2つ以上の伝票を使用する場合には取引を分割して起票する方法があるが、仕入れを買掛金と現金の両方で分割起票した場合、仕入れが2回行われたかのような誤解を与えるという指摘がなされ、仕入れをすべて買掛金で仕入れして、あとで買掛金を現金で決済する方式の起票を進めている(いわゆる取引を偽装する伝票処理)。その流れから5伝票制度の説明で仕入伝票や売上伝票について相手勘定科目を記入しないで済む理由もすんなり頭に入ってくるという見事な構成だ(売上伝票や仕入伝票は掛取引を前提としているので)。仕入伝票からは仕入勘定と買掛金勘定、売上伝票からは売掛金勘定にしか転記されないというくだりがあるがこれにも原則論としてならばわかりやすい原理を紹介していることで納得(例外的な取引は常に存在すると思うが…)。
 繰越利益剰余金と損益計算書そして残高勘定もしくは繰越試算表などとの関係についてのわかりやすい説明があればよかった。今後さらにバージョンアップしていくらしいのでさらに期待。

手帳進化論

著者名;舘神龍彦 出版社;PHP新書 出版年;2007年
 いろいろな有名人が出版した手帳やメモ、そしてメモに関する一種のガイダンスブックなども含めて解説。現代の手帳の原型は1862年に福沢諭吉が渡欧。パリの文具店で購入して持ち帰ってきたのがはじめて日本に手帳が伝来した瞬間であるという。その17年度に「懐中日記」が発行されるがその間にあった1872年の日本への太政官布告の太陽暦の導入が手帳の歴史にとって重要と指摘している。懐中日記、そしてそれに続く軍隊手帳、さらには会社がかつて出していたいろいろな手帳に共通するものとして手帳が共同体の帰属感覚を生じさせるものであることを明らかにしていく。手帳のスクラップ機能やいろいろな付属物なども確かに面白いのだが、文化的・歴史的に日本の手帳ブームを解読しようとした新書として印象深い。