2008年2月3日日曜日

エッセンス簿記会計第4版

出版社;森山書店 著者名;新田忠誓 発行年;2007年4月10日
 総勢13人の著者による個性的な簿記会計の入門書。社団法人全国経理協会推薦図書である。営業資産(事業資産か?)の説明に比重が置かれており、無形固定資産や純資産の部についてはあまり説明がないというのも個性的だ。第6章では三分法の説明が中心だが、その後に分記法と総記法の説明があるのが面白い。通常入門段階で分記法か三分法か、といった議論はあるが、そうした「低次元」(?)の水準をこえて総記法にまで踏み込むあたりが高いレベルをめざした入門書であることがわかる。
 第2章の用語集は便利(13ページ~25ページ)。そしてそと38ページでいきなり(繰延資産として計上した)「創立費」の償却が出てくる。この段階で読む読者層は日商3級はクリアしている層に「限定」されてくるような印象を受ける。帳簿についてはかなり実務的な細かい説明がありこれは非常に好ましい。コンピュータ会計が進んだとはいえ、帳簿の見出し行は上は複線、下は単線、金額欄は縦の複線で区切り、逆にいうと縦の複線で区切られた数字は「金額」という意味と読み手には判断できる。金額の合計あるいは差額についても単線で上を区切り、その計算が終了したときには二重線を引く(55ページ)という説明はこの時代だから重要で入門書には必須の知識だと思う。
 帳簿組織の部分はA5判型なのだが拡大コピーするなど読者の側でもいろいろ創意工夫する必要があるだろう。
 株主資本等変動計算書はあっさり3ページで、しかも繰越利益剰余金を配当原資とした配当金や配当平均積立金を処分する練習問題も興味深い(281ページ)。売買目的有価証券評価益勘定など勘定科目レベルですでに独特なのだが、これも一種の「なれ」かもしれない。教育目的などいろいろなお考えのもとだとは思うが、会社計算規則その他の勘定科目(表示)との整合性はこれからの課題になるだろう。特に勘定科目には帳簿組織を構成する上でどうしても長さはなるべく簡潔にしたほうが良いという面もある。11文字の勘定科目では帳簿記入やリーダビリティの問題を考慮するとさらに改善されるべき論点が多く提出されていると思われる。
 p.103で割賦未収金という勘定科目が使用されていておもわずニヤリ。商品の売買以外の代金の後払い(代金請求権)にのみ未収金勘定を用いるという原則に反する反論が何某早稲田大学教授の書籍で読んでばかりのことで…。とはいえ基本に忠実な著述も多く「同一取引同一仕訳の原則」(同じ現象について同じ勘定科目を用いるべきという原則)についても言及されており、割賦未収金勘定も正常営業循環基準に含まれている存在だから、貸借対照表に開示されるときには未収金で処理して売掛金に含めて開示されるということかもしれない、
 第9章では納税申告書の書き方が設定され、本支店会計は第17章の利益の処分と損失の処理の後に「補章」として設定されているのもユニーク。204ページでは有価証券の差し入れ、収益の見越し・繰り延べの説明のあとに有価証券の売買活動が説明されているのも個性的だが「個性」というよりももう少し配列に気を使わないと入門者では全部とトータルの流れで理解するのは難しい本かもしれない。なにせ「有価証券運用損益」勘定は「投資の成果をまとめて示すために」統制勘定として用いるという説明は概念フレームワークをふまえたきわめて簡潔にして優れた説明だとは思うが「投資の成果」というキーワードが概念フレームワークに由来する言葉であることをどれだけの読者が理解できているかどうか。
 228ページの合計試算表の役割の意義についてはかなり分かりやすく説明。貸借一致を確認するだけでなく仕訳帳の借方・貸方合計金額と試算表の借方合計・貸方合計金額との一致を確認するという作業は仕訳がまるまる1つか2つ抜けているか抜けていないかを確認するのに有意義だし、ここをしっかりおさえておくと特殊仕訳帳制度で二重転記の問題点や二重仕訳金額控除の重要性が伝わるというものだ。合計試算表の機能自体は特殊仕訳帳制度にも通じる面があるということでこの2つのリンクを指摘するテキストがもっと出版されてもいいだろう。また残高試算表についても通り一遍の説明だけでなく精算表作成のための準備になるという積極的役割も明示されているのが好ましい。合計試算表にも残高試算表にもそれぞれ役割があるのでそれぞれの積極的意義をもう少し強調しても良かったかもしれない。
 決算整理の最終的な目的を損益勘定と残高勘定の作成という定義づけ(229ページ)もコンパクトでしかも積極的意義で非常に好ましい。こうしたシンプルでなおかつ積極的な意義はもっとこれからの改訂版で推し進めて欲しい文章である。
 第16章の「帳簿組織と伝票」はかなりコンパクトに伝票と帳簿組織についてまとめてあり、この本の中では限られたページ数を最大限に活用した優れた内容である。仕訳日計表にして「一定期間の伝票を勘定科目別」に「集計して合計転記」とメリハリのある説明。さらに仕訳日計表から総勘定元帳への転記で仕丁欄には勘定口座の番号を記入し、総勘定元帳の元帳欄には仕訳日計表のページ数を記入し摘要欄には「日計表」の名称を記入するなど伝票制度の解答に当たっては必要な知識が網羅されている。また2つ以上の伝票を使用する場合には取引を分割して起票する方法があるが、仕入れを買掛金と現金の両方で分割起票した場合、仕入れが2回行われたかのような誤解を与えるという指摘がなされ、仕入れをすべて買掛金で仕入れして、あとで買掛金を現金で決済する方式の起票を進めている(いわゆる取引を偽装する伝票処理)。その流れから5伝票制度の説明で仕入伝票や売上伝票について相手勘定科目を記入しないで済む理由もすんなり頭に入ってくるという見事な構成だ(売上伝票や仕入伝票は掛取引を前提としているので)。仕入伝票からは仕入勘定と買掛金勘定、売上伝票からは売掛金勘定にしか転記されないというくだりがあるがこれにも原則論としてならばわかりやすい原理を紹介していることで納得(例外的な取引は常に存在すると思うが…)。
 繰越利益剰余金と損益計算書そして残高勘定もしくは繰越試算表などとの関係についてのわかりやすい説明があればよかった。今後さらにバージョンアップしていくらしいのでさらに期待。

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