2008年5月31日土曜日

「仕組み」仕事術(株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン)

著者:泉正人 出版社:株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン 発行年:2008年
評価:☆☆☆
 ビジネス書籍で最近めざましく大躍進をしているディスカヴァー社のまたもベストセラー。最後のページには書籍発行にかかわったスタッフ全員の名前が入っており、会社一丸として一つの書籍を作り出した…という「感じ」が伝わってくる。必ずしも全員が全員同じ意見ではなかったかもしれないが、いざ完成してこういう形で印刷され、書店に並び、実際に増刷されるとスタッフの方々の苦労やあるいは不平不満も癒されることだろう。さて内容はというと、仕事をいかに「仕組み化」していくか…という著者の工夫がいろいろ紹介されている。個人的には「作業系」と「考える系」とでざっくり業務を2つに分けてしまうという分類が有用だった。細かいスキルやテクニックは人によって好みがでてくるもので、個人がそれぞれ自分にあうスキルを身につけていけばいいのだと思う。ただ、なんとなく「こうかもしれないなあ」と曖昧に考えていることをざくっと分類してもらえると、自分なりの進む道が見えてくるという効果はある。to doリストについて著者はoutlookを紹介しているのだが、メモやto doリストは私個人は「手書き」にこだわっており、たとえばそうした細かいところまで「まね」をするというのも本書の主目的ではあるまい。
 「考える系」の仕事は確かに時間がかかればいいというものでもなく非常に難しく、あまりこの本でも紹介はされていないのだが、それはマインドマップなど他の「考具」を探索すべきなのだろう。効率化する努力をどこまで自分で追及できるか…といった視点でこの本をもとに自分なりの工夫をこらしていく…そしてそれがある程度進化した時点でまた第三者に公開してまた工夫と改良を加えてもらう。「仕組み」や「技術」にはそうした改善改良の道が多数あるのがまた楽しい。

2008年5月27日火曜日

たった400字で説得できる文章術(幻冬舎)

著者:樋口裕一 出版社:幻冬舎 発行年:2005年 評価:☆
 自分の正しさを証明し自己主張する。大学入試の小論文などには非常に適した方法論ではないかと思う。ただしブログやホームページなどでは別に自分が正しいとも正しくないとも考えていないケースもあり、自己主張すらする気がなくても文章を書くことがある。したがって、この本が有用になる読者層としては400字程度のレポートなり小論文なりを書く必要性がある方々のみということになるだろう。説得力のある文章を書くのは難しいが社会人としてはやはりデータをしっかりそろえてからそのデータを解明していくという作業になる。が、この本ではデータや参考書籍などの閲覧などはあまり想定されていないので、これもまた受験生向けの内容といえるだろうか。個人的には「困ったときには得意のネタに結びつけよ」あたりが非常に役にたつなあと思ったが、この「得意ネタ
」をだいたい47手ほど覚えていれば、大学の修士課程の入試ぐらいまではなんとかなるという説もかつて聞いた事がある。ただ400字でまとめることができるのであれば、この本も定価1300円で216ページも使わないで、もう少しコンパクトにまとめていただければよかったのに…。

プロフェッショナル仕事の流儀2(NHK出版)

執筆者:茂木健一郎&NHK「プロフェッショナル」制作班 出版社:NHK出版
発行年:2006年
評価:☆☆☆
 定価が1000円とやや高いのが難点だがいずれさらに文庫化もされるだろう。ただ今なるべく早く「仕事の流儀」についておく深い話を聞きたい方にはやはりお勧めの一冊。特にアートディレクターの佐藤可士知さんの使っている道具(メモやIPODなど)そして本質をつかむことから公告を考えていくというアプローチは非常に勉強になる。「どういうつもりで作っているのか」というコンセプトメイキングをいかに確立していくかは本当に大事なことのように思う。単なる「思い込み」ではなく、万人が納得せざるをえないようなコンセプトを確立し、そのコンセプトをもとにデザインを構築していく。そうした作業はだれもができそうでできないことだが、だがしかし、メーカーの担当者とデザイナーのはてしもないインタビューからおそらく生まれてくる一種の合作公告ということになるのだろう。「何か新しい視点を示す」という職業倫理に支えられた佐藤のインタビューは非常に面白いがそのほかにも消費者金融を相手にした弁護士や量子物理学者のインタビューなども掲載されている。

利益の方程式(東洋経済新報社)

著者:勝間和代 出版社:東洋経済新報社 発行年:2008年
評価:☆☆☆☆
 たちまちベストセラーになってしまった勝間和代さんの利益の上げ方。売上高の伸びだけにどうしても目がむいてしまうが、そうした中で、利益をいかにしてあげていくか、利益をあげるためには何に注意すべきかといった解説をつけてくれている(売上高マイナス売上原価マイナス販売費が利益ということで売上高と利益が違うことは本を読む前の前提となる)。利益の源泉が他社に追いつかれるまでにいかに稼ぐかがポイントという考え方にはなるほどと思う。「まね」自体はどこもかしかもやっているわけで、宅配便業界もヤマト運輸の革新性を他社がまねることから今の熾烈な競争となった。利益をあげるためには「儲からない仕事をやめること」とすっぱり断定されていたり、顧客獲得コストがほぼゼロの商品が一番儲かるといった視点はタイトル以外にもいろいろ応用がきく。広告宣伝費にお金をかけている企業の売上高は確かに増加するかもしれないが、顧客獲得コストがやはり相当に高くなる。その分利益幅が小さくなるのであまりもうかっていない商品を販売しているという見方もできるわけだ。儲かるビジネスというのは広告宣伝費がかからず販売促進費もかからないブランドが確立されている商品やクチコミで品質が保証されている商品ということになる。品質を落とさずに原価管理していくことの重要性や消費者は「かなり賢い」という前提に立たないと儲かるビジネスが出来ないという指摘にも納得。そうした意味であらゆる複製が可能なインターネットビジネス。相当に用心をしないと売上高を伸ばすという技はそれほどきく分野ではない(すぐフォロワーが追いついてくるため)。むしろ既存産業がなにかしらのアフターサービスを行うための手段としてネットが利用されていくということも今後あるのかもしれない。広告宣伝費の抑制ということではネットほど効果的な媒体はないからだ。

手紙の書き方(講談社現代新書)

著者名;安田武 出版社:講談社 発行年:1978年
 残念ながらもう絶版となった講談社現代新書。定価は私が保有しているもので450円だ。手紙の書き方とはいっても難しく考える必要はないが、少なくとも「型」をしっかりみにつけることの重要性がエピソードを豊富に交えて語られている。第2編では日本人と季節感について述べられており、小説そのほかに季節感がいかに日本人に大きな影響を与えているのかが述べられている。桜からつつじ、つつじから藤、藤の花から菖蒲(あやめ)といったこの時期の季節感は確かに日本人がかなりこだわるものである。毎年同じように見えて実は違う。そうした季節感を手紙に織り込むことの大事さを筆者は説いているのだと思う。
 昨今の「手紙論」とは異なり、著者はさらに手紙の「型」から日常行動の隅々にまで型を持ち込むことにまで言及している。相撲の技や花道の七三なども型である。人間と人間の集団的な暮らしに一種の約束事が必要となり、それは形式主義とは無縁のことだ、と筆者はいいたいのだろう。いわゆる手紙の常識とか儀礼ごとのリストが始まるのは169ページから。書き出しの挨拶そのほかの定型がリストになっており、今でいうとテンプレートということになるだろうか。これらは記憶するものではなくむしろ型の一つとして利用せよ、と著者は主張しているのではないかと思う。購入してから、おそらく20年ぐらいは過ぎているのではないかと思われる古い新書。今ではウェブで検索してもなかなか入手しにくい本のようだが、こうしてその一冊は自分の本棚に眠っていたのがまた目を覚ます…。

エースの品格(小学館)

著者名:野村克也 出版社:小学館 発行年:2008年
 稲尾、杉浦といっただれしもが認める過去のエースや現在プロ野球で活躍する現役の選手を取り上げ、エースと呼ばれる条件について著述。「小事、細事が大事を生む」の実例として杉浦ほどのスピードはでなかったもののスライダーを覚えたことによって30勝を達成した皆川投手の例などがあげられている。力も技術も先をいく相手に対して、どうすれば勝つことができるのかを思案するのはビジネスの世界にも似ている。資本や労働力、知的財産がはるかに巨大な企業に対して小規模な企業が勝つにはどうすればいいのか。一つの失敗が後の糧になることを前提として仮説を立案して、相手の情報を分析し、さらにその弱点をつく。集団行動であることと人間が主体となる点では、プロ野球と企業経営の類似点は非常に多い。結果を出すことによって興味が湧き、興味がわくことによって努力を続けることができるという好循環をいかにして生み出すのか。そしてそれを個別の人間の個人的な努力に終わらせるのではなく一つの「仕組み」にするにはどうするべきなのか、といった工夫と改善には終わりがない。個人的にこの著者の新刊がでたら買おう、と決めている著者としては野口悠紀夫さん、和田秀樹さんといった方々になるが、野村克也監督の著書もやはり新刊がでれば即購入する。才能で花開いた人の技術は移転不可能だが、努力で花開いた人の技術論は凡人にも移転可能だ。最終的にそうした地道な努力が「人をいかす」「人によっていかされる」といった人生論にまでつながっていくのは一つの道を究めた人に許される特権だろう。

2008年5月25日日曜日

会計制度 新訂版(同文館出版)

著者:山地範明 出版社:同文館出版 発行年:2008年

評価:☆☆☆☆☆

 法人税法会計と会社法会計(商法会計)・金融商品取引法会計(証券取引法会計)との分離を説明し、国内の会計制度の概略を理解してから海外の動向をコンパクトに紹介。さらに概念フレームワーク、会社法会計、金融商品取引法会計とそれぞれの会計制度の概略を説明する入門テキスト。金融商品取引法会計についても、タイトルが「会計制度」だけにかなり詳細で厳密な説明がなされており、通常のテキストでははしょられてしまいそうな事柄を逆に重点的に説明されているのが好ましい。金融商品取引法自体には、会計に関する詳細な規定がなくGAAPに依拠するという点で会社法会計と同様であることを初めて知った(89ページ)。最新の動向が記述されているだけあって2008年4月1日からXBRLによる財務諸表の提出の義務化など読んでいて非常に有用(96ページ)。株券の大量保有に関する金融商品取引法が求めている開示(5パーセントルール)、目論見書(投資者に交付する一種の説明書き)に交付目論見書と請求目論見書の2種類があることも初めて知る。内部統制報告書・四半期報告書・確認書・半期報告書・臨時報告書・自己株券買付状況報告書・親会社等状況報告書などについても詳細でわかりやすい説明(102~105ページ)。海外投資家向けのアニュアルレポート以外にその補完資料としてファクトブック(財務データ、業界データ、株主資本利益率など)が開示されていることも初めて知る。

 とはいえ会計学の書籍であるので自己株式の消却と利益剰余金がマイナスのケースを対比させるなど細かいところで面白い説明方法をとる。

 そして127ページ以後には「会計制度の新たな展開」として2008年以後の最新情報が記載。ただし金融商品会計、退職給付会計、企業結合会計については通説の説明にとどまっているがこれはやむをえないだろう。事業分離会計が個人的には理解しにくい会計基準だったのだが、この本を読んでかなり理解が進んだ。投資の精算に相当する場合には、事業の成果や「実現主義」とも通じる考え方で「移転損益」を認識し、投資が継続していると考えられる場合には、「移転損益」を認識しないという考え方は概念フレームワークからブレイクダウンして考えていくと非常にわかりやすい。さらに2010年から強制適用される資産除去債務の負債計上も興味深い。これまで有形固定資産の除却などの際に発生した費用は固定資産除却損などに含めて処理していたが、当該金額を合理的に見積もれる場合には負債として計上することになる(150ページ)。

 巻末の索引が5ページというのもうれしい。ただし索引用語は5ページの割には少ないのだがこれは今後さらに改訂が進むにつれて充実していくだろう。会計制度を理解していないと会計情報が開示されても正しい理解ができない。また企業の設備投資の状況なども実際には開示されているわけで、なんの財務諸表や書類のどこの数値を調べればいいのかといった基本的な理解のためにもこの本を読んでおくと非常に有用である。価格は2000円だが読んでおいて損のないA5サイズ192ページ。

STUDY HACKS!

著者名:小山龍介 出版社:東洋経済新報社 発行年:2008年
評価:☆☆☆
 近所のコンビニエンスストアが書籍の販売も始めたが、これが案外の人気コーナーとなっており、特に売り上げベスト10にならべられた書籍をチェックするだけでベストセラーの内容を立ち読みできる。もちろん気に入ればその場ですぐ購入できるし、実際に何冊も最近はコンビニエンストアで購入している。
 で、この本、やはり「ハックス」を紹介する第一人者としての名高いが、内容も優れもの。wikiを利用して自分辞書を作るとか、ICレコーダーで知識を音声化するなど自分には思いつかなかったアイデアがどんどん紹介されている。正直、「どうすれば充実した人生がおくれるか」といったような内容は読んでいても退屈なのだが、どう工夫すれば、知識をインプットしてアウトプットできるかといった技術論はいくら読んでも読み足りない。ノイズキャンセリング機能がついたヘッドフォンなども紹介されており、今日早速新宿のビッグカメラで試聴。紹介どおりかなりの優れもので、勉強だけでなく音楽を楽しむという目的にもかなっているし、電車の中で他の乗客に迷惑をかけることもない。BOSEのquiet comfort3が推奨されていたがその理由もわかる。学習意欲と報酬機能の関連付けなどは前から自分自身で実践していたが、それもこの本で明瞭に「仕組み化」されている。哲学的な内容は複製できないが、技術であるならば簡単にコピー、複製化できるし、さらに自分なりのカスタマイズもできる。昨今、こうしたビジネスブックがかなり売れているが、その中でも「ハックス」シリーズはかなり生活そのほかに応用が利くという点で嬉しいブーム。他人にとってどれだけ自分なりの個性なりライフスタイルなりに取り込めるかが、こうした本の良し悪しを決定するのだと思う。

2008年5月12日月曜日

財務会計入門第2版(中央経済社)

著者名:田中健二 出版社:中央経済社 発行年:2008年
評価:☆☆☆☆
 初版も購入してよんだが初版の発行は2007年6月。その後増刷されて新しい会計基準、とりわけ工事契約に関する会計基準や棚卸資産会計基準などの公表を受けての9ヵ月後の第2版出版ということになる。著者の良心と、最新の情報をわかりやすく取り込んで読者に提供しようという姿勢がみえて非常に好ましい。お値段は2,600円だが、それだけのお値打ちものといえる。退職給付会計基準や投資事業組合の連結会計などはほとんど入門ぶぶんだけであとは「専門書を参照してください」というコメントがついているのだが、読者は素直に専門書籍を参照したが方が確かに良い。個別財務諸表から連結財務諸表や財務分析まですべてをコンパクトに網羅しており、さらにどうしてそういう会計処理になるのか、といった点についてもわかりやすく著述されている。例題もついているので、日本語でわかりにくい場合には具体的に電卓を用意して例題を解いてみるのが効果的だろう。索引が7ページあるのも検索に非常に便利。大学などでの入門テキストとして想定された著書のようだが、社会人が会計学をブラッシュアップするのにも非常に便利な入門書。特に会計制度がめまぐるしく変化しているだけに第2版は第3版が刊行される前の現在(2008年時点)で「今どうなっているのか」を知るのに有用な本だろう。248ページというページ数も持ち歩きに便利で学生や社会人にとっては読みやすさが考慮されている。これが300ページを超えるとやはり相当に携帯して読むのには制約がともなうのでこのページ数を維持した今後の改訂バージョンの刊行が楽しみだ。

2008年5月6日火曜日

情報は1冊のノートにまとめなさい(Nanaブックス)

著者名:奥野宣之 出版社:Nanaブックス 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆☆
 ベストセラー街道まっしぐらの本書だが実際に買ってみて読んでみると理由がわかる。サブタイトルが「100円で作る万能情報整理ノート」となっているが、タイトルもサブタイトルも一種の「煽り文句」で実は筆者自身も何冊ものA6サイズのノートのアーカイブを構築している。内容はやはり売れるだけあって、意表をつくけれども「使えるテクニック」が満載。おそらく読者の全員がこの本書の内容をそのまま自分の生活に取り込むというケースは少ないと思うが、いろいろ応用を利かせて自分なりの情報データベースを構築するヒントがたくさん詰まっている。おそらく100円とか1冊とかそういうことではなくて、すでに既存のいろいろな方法の中からオリジナルの情報整理をしている人にとってさらにヒントを与えてくれる点がベストセラーにつながったのではないか。コンテンツの良さと表紙の面白さが書店で手に取る人の多さにもつながっているような気がする。最終的にはテキストファイルによる索引作りにまで至るのだが、そこまで真似することはなくてもたとえばwordよりもテキストファイルのほうが便利というあたりが、また応用が利くわけだし、文庫本サイズとA6サイズはほぼ同じ大きさという指摘がまた別のヒントにもつながる。自分としてはすでにA判型にほとんどの書類やメモ、プリントアウトをそろえる様にしていたが、あくまでもそれはA4サイズとA5サイズが中心でA6サイズまで小型化することまではこれまで考慮していなかった。が、この本を読んでA6サイズの活用とA7サイズのメモとの関係まで考慮するようになった(ロディアのナンバー11の大きさがちょうどA7サイズで超整理手帳のアイデアメモもA7サイズなので、そこまで考慮すれば超整理手帳とこの筆者の100円ノート方式はどこかでリンクできる。さらにロディアの変形ナンバー8サイズはちょうど大きさがA5サイズの縦半分なのでこれもどこかでリンクできる)。
 この文庫本サイズの活用という視点はとても重要な指摘で、たとえばロフトで主に販売されている「ほぼ日手帳」は文庫本サイズ(A6サイズ)。したがって、ほぼ日手帳の愛好者にとってもおそらくリンクできる部分はあるはずだ。個人的にはメモ関係についてはペンホルダーの有無を重視するようになってきているのでこの本の内容は実は使えないのだが、まったくこの筆者の意図する方向とは違う形で応用をいろいろ考えようとしている。筆者が便利と指摘しているテープ型のノリについても、筆者の意図とは違う形で(たとえばスクラップなど)で使おうと考えているし、仕事上ノリを使うことが多いので、スティック型などとはまた違う場面でテープ型を使うつもり。一つの「方式」からいろいろな形に発展できるという点で画期的な内容で、これは野口悠紀夫教授の「超整理法」を読んでからひさかたぶりの「目の覚める思い」がした本。読んで得する1,300円。

2008年5月5日月曜日

成功本50冊「勝ち抜け」案内(光文社)


著者:水野俊哉 出版社:光文社 発行年:2008年 評価:☆☆☆
 非常に粗悪な紙と表紙で環境問題への取り組みをみせたと断り書きがある書籍。お値段は952円だがあともう少し下げてもらえると庶民の懐にも配慮のある出版社ということになるが…。さて中身は古今東西のいわゆる「成功するためにはどうすればいいか」という成功本を50冊リストアップし、おおまかな粗筋とポイントを筆者が指摘。さらにそれぞれの成功本をチャートにまとめてくれているという一種のブックガイド。ネットではなかなか入手できない形式の体系的なブックガイドだけに、この手の本はやはり手元に置いておきたい一冊。ビジネス書籍の類については結構よんでいるつもりだったが、自分の場合、「成功本」というのはあまり読んでいないことにあらためて気がつく。「7つの習慣」なども途中で投げ出してしまったのだが、自分の場合、精神論的なビジネス本というのはあまり信用していないせいかもしれない。その一方で、テクニカルなパソコンの使い方や手帳の使い方などの書籍はかなり眼を通すと同時に、食生活や睡眠時間関係のビジネス本は結構読む。コレも一種の「偏り」かもしれないが、一定の実績を上げている人のテクニカルな書籍(メモの取り方やパソコンの使い方など)は再現性もあり、自分なりに応用して加工することもできるが、精神だけはやはりコピーすることは難しいからだと思う。それにやはり「オカルト」的な内容や宗教的内容、スピリチュアル本との区別がつきにくいのも精神論的なビジネス本の特徴でもある。ある「成功本」は現役の金融機関の頭取が、「宇宙の進化」「見えない天使」が経営を見守っている…などと紹介しているくだりがこの本に掲載されており、ある意味歴史に残る「成功本」をこのブックガイドで知ることもできる。索引がもう少し充実しているとより使いやすくなるが、この本で全体的な「成功本」の流れを汲み取って、自分に適した本を選択するというのはかなり賢い方法ではないかと思う。タイトルだけみるとテクニカルで物質的な話のようにみえても、実際には予想と正反対のオカルトティックで精神論的なメッセージ満載というケースだってある(そっちのほうが性にあっているという方はもちろんそうした本を読めばいいわけで)。本屋さんでの立ち読みの前に一回軽く自宅でこの本に眼を通しておくのは時間と体力の節減につながるだろう。

2008年5月4日日曜日

野村の「眼」~弱者の戦い~(KKベストセラーズ)

著者:野村克也 出版社:KKベストセラーズ 発行年:2008年
 野球選手や監督にもやはり好き嫌いはどうしても出てくる。投手といえば自分の場合には、やはり速球勝負のピッチャーよりもサイドスローやアンダースローのピッチャーでしかもあまりスピードが速くないピッチャーの投球が見ていて面白い。かつてのヤクルトの守護神高津投手のサイドスローもストレートはけっして速くはないピッチャーだったが、シンカーとストレートをたくみに交えた投球術は素晴らしかった。そしてそうしたコントロールで勝負するピッチャーを日本記録を後に達成するリリーフに抜擢したこの野村克也監督の采配もやはり素晴らしい。
 監督のタイプにもいろいろあるが、野村監督にはやはり弱小球団、しかもあまり人気のない球団の監督がにつかわしい。かつて日本最強の戦力と日本シリーズでの優勝を達成した森監督は後に横浜ベイスターズの指揮をとるがやはり巨大チームの監督が似合う。阪神タイガースでは赤星選手を育成するなど戦力の基盤育成については功績はあったが野村監督は勝率では結果が出せなかった。自ら「月見草」と称するこの監督には関西方面を中心に日本でも巨人と並ぶ人気球団の監督はやはり似合わない。「どうにもならないチーム」を率いて、昨年は見事に4位。阪神から移籍してきた沖原選手を代走のプロフェッショナルとして試合で活用したり、中日から移籍した山崎選手をホームラン王に導くなどやはり独自の野球哲学で独特の個性を選手から引き出す魅力ある野球を展開してくれる。そしてこの本ではかつての南海ホークスやヤクルトスワローズ、阪神タイガース時代を回顧しつつも、楽天ゴールデンイーグルスの今後についても言及している。70歳を超えるこの名将が語る言葉の一つ一つが重いのだが、「先入観は罪、固定観念は悪」「判断と記憶は一体」「勝負事とは欲から入って、欲から離れる」「見ろ、考えろ、備えろ」といった名言は普段の生活にも役にたつ。野村克也氏の教えを受けた高津投手は現在SAでさらにまた復活を期しているようなのだが、この執念などはやはり野村監督の現役時代のボロボロになるまで試合にでていたという逸話に影響を受けているのではあるまいか。今年の楽天ゴールデンイーグルスの試合がさらに面白く見れるとともに、おそらく今後のプロ野球をめざす人にも、社会人としてさらに頑張る人にも示唆に富む文章がいくつも読める著作である。