2008年5月4日日曜日

野村の「眼」~弱者の戦い~(KKベストセラーズ)

著者:野村克也 出版社:KKベストセラーズ 発行年:2008年
 野球選手や監督にもやはり好き嫌いはどうしても出てくる。投手といえば自分の場合には、やはり速球勝負のピッチャーよりもサイドスローやアンダースローのピッチャーでしかもあまりスピードが速くないピッチャーの投球が見ていて面白い。かつてのヤクルトの守護神高津投手のサイドスローもストレートはけっして速くはないピッチャーだったが、シンカーとストレートをたくみに交えた投球術は素晴らしかった。そしてそうしたコントロールで勝負するピッチャーを日本記録を後に達成するリリーフに抜擢したこの野村克也監督の采配もやはり素晴らしい。
 監督のタイプにもいろいろあるが、野村監督にはやはり弱小球団、しかもあまり人気のない球団の監督がにつかわしい。かつて日本最強の戦力と日本シリーズでの優勝を達成した森監督は後に横浜ベイスターズの指揮をとるがやはり巨大チームの監督が似合う。阪神タイガースでは赤星選手を育成するなど戦力の基盤育成については功績はあったが野村監督は勝率では結果が出せなかった。自ら「月見草」と称するこの監督には関西方面を中心に日本でも巨人と並ぶ人気球団の監督はやはり似合わない。「どうにもならないチーム」を率いて、昨年は見事に4位。阪神から移籍してきた沖原選手を代走のプロフェッショナルとして試合で活用したり、中日から移籍した山崎選手をホームラン王に導くなどやはり独自の野球哲学で独特の個性を選手から引き出す魅力ある野球を展開してくれる。そしてこの本ではかつての南海ホークスやヤクルトスワローズ、阪神タイガース時代を回顧しつつも、楽天ゴールデンイーグルスの今後についても言及している。70歳を超えるこの名将が語る言葉の一つ一つが重いのだが、「先入観は罪、固定観念は悪」「判断と記憶は一体」「勝負事とは欲から入って、欲から離れる」「見ろ、考えろ、備えろ」といった名言は普段の生活にも役にたつ。野村克也氏の教えを受けた高津投手は現在SAでさらにまた復活を期しているようなのだが、この執念などはやはり野村監督の現役時代のボロボロになるまで試合にでていたという逸話に影響を受けているのではあるまいか。今年の楽天ゴールデンイーグルスの試合がさらに面白く見れるとともに、おそらく今後のプロ野球をめざす人にも、社会人としてさらに頑張る人にも示唆に富む文章がいくつも読める著作である。

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