2008年5月25日日曜日

会計制度 新訂版(同文館出版)

著者:山地範明 出版社:同文館出版 発行年:2008年

評価:☆☆☆☆☆

 法人税法会計と会社法会計(商法会計)・金融商品取引法会計(証券取引法会計)との分離を説明し、国内の会計制度の概略を理解してから海外の動向をコンパクトに紹介。さらに概念フレームワーク、会社法会計、金融商品取引法会計とそれぞれの会計制度の概略を説明する入門テキスト。金融商品取引法会計についても、タイトルが「会計制度」だけにかなり詳細で厳密な説明がなされており、通常のテキストでははしょられてしまいそうな事柄を逆に重点的に説明されているのが好ましい。金融商品取引法自体には、会計に関する詳細な規定がなくGAAPに依拠するという点で会社法会計と同様であることを初めて知った(89ページ)。最新の動向が記述されているだけあって2008年4月1日からXBRLによる財務諸表の提出の義務化など読んでいて非常に有用(96ページ)。株券の大量保有に関する金融商品取引法が求めている開示(5パーセントルール)、目論見書(投資者に交付する一種の説明書き)に交付目論見書と請求目論見書の2種類があることも初めて知る。内部統制報告書・四半期報告書・確認書・半期報告書・臨時報告書・自己株券買付状況報告書・親会社等状況報告書などについても詳細でわかりやすい説明(102~105ページ)。海外投資家向けのアニュアルレポート以外にその補完資料としてファクトブック(財務データ、業界データ、株主資本利益率など)が開示されていることも初めて知る。

 とはいえ会計学の書籍であるので自己株式の消却と利益剰余金がマイナスのケースを対比させるなど細かいところで面白い説明方法をとる。

 そして127ページ以後には「会計制度の新たな展開」として2008年以後の最新情報が記載。ただし金融商品会計、退職給付会計、企業結合会計については通説の説明にとどまっているがこれはやむをえないだろう。事業分離会計が個人的には理解しにくい会計基準だったのだが、この本を読んでかなり理解が進んだ。投資の精算に相当する場合には、事業の成果や「実現主義」とも通じる考え方で「移転損益」を認識し、投資が継続していると考えられる場合には、「移転損益」を認識しないという考え方は概念フレームワークからブレイクダウンして考えていくと非常にわかりやすい。さらに2010年から強制適用される資産除去債務の負債計上も興味深い。これまで有形固定資産の除却などの際に発生した費用は固定資産除却損などに含めて処理していたが、当該金額を合理的に見積もれる場合には負債として計上することになる(150ページ)。

 巻末の索引が5ページというのもうれしい。ただし索引用語は5ページの割には少ないのだがこれは今後さらに改訂が進むにつれて充実していくだろう。会計制度を理解していないと会計情報が開示されても正しい理解ができない。また企業の設備投資の状況なども実際には開示されているわけで、なんの財務諸表や書類のどこの数値を調べればいいのかといった基本的な理解のためにもこの本を読んでおくと非常に有用である。価格は2000円だが読んでおいて損のないA5サイズ192ページ。

0 件のコメント: