2008年7月26日土曜日

半落ち(講談社)

著者名:横山秀夫 出版社:講談社 発行年:2005年 評価:☆☆☆
 話の中身がとても重たい。この本を読んでアルツハイマー病の発症年齢が52歳が平均ということもはじめて知った。予想以上に若く,この病気の深刻さを知る。ミステリーなのだが,ある現職警察官が「妻を殺しました…」と自首してくるところから,話が始まる。県警本部と地方検察庁との探りあい。新聞記者と県警の関係。さらに裁判官のプライベートな事。そして刑務官の定年間際におぼえた不思議な倫理感。「立場」を超えてそれぞれがそれぞれにやるべきことをやろうとした結果,最終的には法定義務を超えたところで人間の魂が救済される過程がみえてくる。リアリティがあるのは,一つの事件を取り巻く関係者の思惑。1つの組織内での対立と協調が思わぬ影響を外部に与えていく様子が面白い。「だれかのために生きている」…ある程度年齢をへればきっとそういう思いは誰しももつはずだが,家族や「愛人」といったことではなく,被疑者が守ろうとしていたのは,まったく別の「だれか」だった。医療や福祉のテーマに切り込むと同時に,元新聞記者独自の描写がまたリアリティがある。
 もちろん読んでいて「ちょっとこれはどうかなあ…」と思う部分がないではない(どうして短期間にこの人があの人を発見できたのか,など)が,そうした多少の瑕疵は問題にならないほど面白い。最後はもちろん「救い」だ。「罪と罰」でラスコリニコフがソーニャに見せた謝罪と同様の光景が展開する…。

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