2008年7月13日日曜日

創価学会(新潮社)

著者名:島田裕巳 出版社:新潮社 発行年:2004年
評価;☆☆☆
 「創価学会は,日本の社会のなかで,もっともアクティブな巨大組織である」とまず著者は生協や連合などの組合組織,神社本庁や既成仏教集団との違いを説明する。統計的には日本では7人に1人が創価学会員である可能性を指摘した上で,創価学会誕生から歴史をたどり,この巨大宗教団体の「現在」にせまっていく。あくまでも客観的状況を分析するという立場に終始し,主観的な価値観にはよらないというスタンス。そして当初教育団体として設立されてから現在に至る歴史の中から今後を展望する。
 高度経済成長期と創価学会をリンクさせて分析し,農村から都市部にでてきた集団を信者に取り込むプロセス。そして仮説として,もし創価学会がそうした農村出身者をとりこまなかった場合には組合の加盟人数が増加していた可能性も示唆する。社会主義について,あるいは学生運動に対してこの宗教団体は傍観者に徹していたので保守主義者からも「容認」されるポジションを獲得するとともに,日本共産党との対立もある意味では必然だったことがわかる。
 ただし今後の展開についての著者の見方は厳しい。一つは在家仏教として,日蓮正宗とは別個の路線を歩むことと,カリスマ性のある指導者がいないとなかなか巨大組織を率いていくのは並大抵のことではないという見方だ。確かに,いまや「都会にでてきた農村出身者」という色分けではなく,職業も学歴もかなり多様化している上に,所得階層もかなりばらつきがでてきているはずだ。これを一つにまとめていくというのはリーダーシップが相当要求される。そして政党としての「公明党」と創価学会の関係も微妙な関係になってきている。ただ一つの宗教団体として分類するだけにとどまるには,あまりにも巨大すぎて日本社会に与える影響を無視できないというのが他の宗教団体と大きく違うところだ。PTAや商店街の自治会といったところを新しく掘り起こすといった活動もあるらしいが,拡大路線を歩みつつ,その拡大した先の「目標」というのは今後,外部の人間との広報や内部の人間を統制するリーダーによって大きく左右される可能性が示唆されている。新書サイズでこの濃密さは,やはり宗教学者としての島田裕己氏の力量を示す。不幸な「巻き込まれ方」で大学の教授職を追われた…という形になっているが,大学の予算や設備を利用して研究活動を進めることができていれば,よりダイナミックな研究成果も期待できたのかもしれない。ただ,新書サイズで島田氏の研究成果などを濃縮して知ることができるのはやはり嬉しい時代である。

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